2022.03.17

現在の日本が抱える製造業の現状とDXを阻んでいる課題とは

日本を支える業界の一つとして、「製造業」があります。「2020年度(令和2年度)国民経済計算年次推計のポイント」によると、GDPにおける製造業の割合はおよそ20%で、全産業の中で最も高くなっています。長きに渡って、日本の産業を牽引してきた製造業は、現在でも日本の基幹産業を担っていると言っても良いでしょう。

 

しかし、現在日本の製造業は危機的状況になっています。とりわけ中小の製造業は、今多くの課題を抱えています。このままでは、あなたの企業も生き残れない可能性があるかもしれません。そうならないようにするには、まず日本の製造業の現状を知ることから始めましょう。

 

そこで今回は、日本の製造業が陥っている危機についてお伝えします。

製造業を取り巻く状況について

 

まずは、日本そのものの経済状況と、製造業の現状についてそれぞれ見ていきましょう。

日本全体の経済成長率

内閣府の「2021年10-12月期四半期別GDP速報(1次速報値)資料1」によると、2019年の実質GDP成長率は-0.2%だったのに対して、2020年では-4.5%となりました。特に2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行によって生産体制に大きな打撃を受けた影響が出ています。

 

2021年の実質GDP成長率は、1.7%と2017年並みに戻っています。とはいえ、この状況からまだまだコロナ禍前の状況に戻っているとは言い難いかもしれません。

製造業の状況について

次に、日本の製造業にフォーカスを当てましょう。

 

日本の製造業は現在、厳しい状況に置かれています。経済産業省が発行している「2021年ものづくり白書」によると、2020年の売り上げが「減少した」「少し現状した」と回答した企業は70%を超えました。(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」)これは新型コロナウイルスによる影響で、国内外での生産活動、材料の調達、物流や配送に影響が出て、結果として売り上げが下がった企業が多いためです。

 

それに伴って、企業は新しい設備への投資も控える傾向にあります。財務省「法人企業統計」によると、2019年3期(10~12月)に4.5兆円近くになっているのに対して、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出ていた2020年2期(4〜7月)は4.1兆円近くに落ち込んでいます。

 

今後も明るい見通しはなく、依然として厳しい状況が続くと予想されるでしょう。

DXが必要な背景:人手不足の現状

そんな製造業の状況を打開するためには、今DXが必要です。その大きな要因に「人手不足」があります。なぜ人手不足が起こっているのか、詳細を分析しましょう。

今、超高齢化社会が到来していると就労人口比率の大幅な減少

日本では、現在高齢化が進んでいます。それは就労者の割合にも顕著に出ています。ここで、製造業の就労人数について見ていきましょう。

 

2021年ものづくり白書によると、2020年の製造業における高齢就業者の就業人数は92万人となっており、製造業の就業人数の8.8%を占めています。この人数は2012年からどんどん増えつつあり、数年ほどは高止まりの傾向となっています。

 

その一方で製造業における若年就業者(34歳以下)は259万人で、製造業のなかの25.8%を占めています。この人数や割合は2002年から下落しつつあり、若い就業者が減っている傾向が顕著になっています。

 

今後も製造業における高齢化・若年層の就労人数の減少が見込まれるでしょう。

人材獲得競争がある

一方、2020年ものづくり白書によると、製造業の94%が人手不足に悩まされていると回答した。

 

それと同時に、人材が大企業に集まる傾向があります。2017年のデータによると、実際に新規学卒者で製造業に入職した割合は11.7%である15.58万人でした。しかし、その中の8.95万人が1000人以上の大企業に入職しています。つまり、新卒の優秀な人材は大企業に集まり、中小企業は人そのものが集まりにくい傾向があります。

 

実際に2021 年の製造業における産業別従業員数過不足DI(1~3月期)は-3.7となっています。特に小企業における製造業は人材不足がさらに深刻な傾向があり、「小企業の雇用に関する調査結果」によると、従業員20人未満の製造業で「人材が不足している」と回答した企業は29.1%に登りました。

 

特に中小企業の製造業では、2020年の新型コロナウイルスの流行によって、1週間以上の休業に追い込まれた企業も多く、これに加え生産体制の縮小などがあり「人材が過剰である」と回答した企業は23.3%になりました。とはいえ、今後生産体制を整える上で人材の必要性を感じている結果が出ています。

 

しかし、もともと中小企業は採用や人材への投資が大企業よりも難しいケースが多いです。このような状況では、人材の育成だけでなく多様な人材が働ける環境づくり、生産の作業の効率化が必要になってきます。そのため、特に中小企業や製造業ではDXの前に今IT化が求められています。

リモートワークをはじめとした働き方の多様化

製造業で導入できるITとしては、最新の技術を導入するだけではありません。例えば既存の作業の仕組化、自動化、テレビ会議やオンライン研修などのリモートワークなどがあります。これによって今まで人の手がかかっていた作業や出張が必要だった件において、費用や時間の効率化につながるでしょう。

 

また製造業でDXを行う場合は、まずこのようなIT化の環境が整っていることが前提です。その一方で、このようなリモートワークやIT化を進めている企業と、進められていない企業との差がどんどん拡大していることも事実です。

 

実は、製造業はリモートワークの導入が難しい部分があります。例えば現場での業務を外に持ち出すリスクや労務管理、現場の進捗が見えなくなる点が懸念点としてあります。さらに、「2021年ものづくり白書」によると製造業でリモートワークでの課題として、「従業員同士のコミュニケーションが希薄になっている」、「従業員の仕事の進捗管理が難しい」、「資料が手元になく仕事がしづらい」などがあります。特に製造業は現場のコミュニケーションが大切になる以上、これらの課題は業務として命取りになるかもしれません。

 

そしてリモートワークを多く導入しているのは、事務部門や営業部門です。肝心の製造部門でリモートワークを導入しているのは、大企業で3.8%、中小企業で6.0%です。この部門では、大企業と中小企業どちらもリモートワークが進んでいません。また製造に欠かせない調達部門でリモートワークを導入しているのは、大企業が43.6%に対し中小企業は12.3%。この部門では、大企業と中小企業では大きな差が開いています。

 

この辺りの改善は、まだまだ時間がかかるでしょう。

日本以外の先進国でIT化が進んでいる理由

かつて日本の自動車・電機メーカー等は、世界でも圧倒的な競争力を持っていました。しかし各国が日本の製造業の生産体制を研究するのと同時に、デジタルによる生産プロセスを作り出しています。特にドイツ・アメリカ・中国では製造オペレーションを標準化し、効率的な生産・他国へのグローバル展開を行うようになります。

 

それと同時に、世界は「第4次産業革命」に向けて動き出しています。「第4次産業革命」とは、1次産業(農業・漁業)、2次産業(建設業・インフラ業)、3次産業(サービス業)に当てはまらない情報通信・医療・教育サービスなどの産業である「4次産業」が、IoTやAI(人工知能)などによって革新が起こることをさします。これによって、製造業のデジタル化やさらなる効率化、人手不足を補うことを目指しています。

 

対して日本の生産プロセスは「人」が中心となります。スキルを持った人が教えてスキルを伝承させるスタイルは、人がいなくなると生産プロセスが成り立たない可能性があります。このため、生産プロセスを広めるにおいてスピードに差が出て、結果として諸外国の生産力が上回るようになりました。

国内製造業のIT化の遅れの現状

このように、日本の製造業はIT化、ないしDXを進める必要性があります。しかし、特に製造業はDXが進んでいません。なぜデジタル化が進んでいないのか、それを阻む課題について見ていきましょう。

IT化を進めるコストの確保が難しい

厚生労働省の「第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」によると、「ITの導入・利用を進めようとする際の課題」でもっとも多かった回答は「コストが負担できない」でした。それでは実際に、IT化を進めるにはどんなコストがかかるのかを見ていきましょう。

 

企業のIT化と言っても、クラウドソフトの導入や大規模なシステムの改修など様々な種類があります。ただ、いずれにせよIT化を行っていく場合、導入費と保守費の2種類が発生します。導入費は初回に1回発生する費用だが、高額になる傾向があります。一方保守費は月額で発生する費用ですが、低額〜高額まで様々です。これらの費用は、IT化の規模によって変動します。

 

そして費用は他にも、サーバーやソフトウェアの実費、アプリケーションの開発費、外部へのコンサルティング費などがかかります。つまり、IT化からビジネスモデルの転換を行うDXに至るまで、かなりのコストが必要となります。これらの費用は中小企業にとっては、大きな負担となるでしょう。

ITによる生産性の向上といった効果が理解できていない

 

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「ものづくり産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査」によると、現在製造の過程でデジタルを活用している製造業の企業は54.0%程度となっています。しかし、「デジタル技術を活用した工程・活動でものづくり人材の配置や異動で何か変化はあったか」という質問に対して、「特に効果はなかった」と回答した企業は20%ありました。

 

特に中小企業や製造業の場合だと、費用の関係で工場の個別部門にITを導入しても企業全体のシステムの最適化ができていない場合が多くなります。そのため、DXの一つとして新しい技術であるAI、IoT、クラウドなどを導入しても効果が限定的になる傾向にあります。そうすると、「新しい技術を入れても、効果はそんなに出ていないのでは?」と考え、さらなるデジタルの導入をためらう可能性があります。

ITを使いこなせる技術者がいない

またコンピュータによる大量生産技術でも、既存のシステムの老朽化、ノウハウのブラックボックス化が進んでいます。そんな中で、製造業はITの人材不足が特に深刻になっています。

 

製造業のITの人材は、自社が保有する設備・装置や、担当する工程(開発・設計、製造、品質管理等)の理解が求められます。ただし、デジタルに強い人材を自社で育てるにはかなりの時間と労力が必要です。そのため人材の育成には、長期的な見通しがないとできません。

 

その余力がない中小企業は研修を行わず、OJTで即戦力を求める傾向があります。つまりITについても、その人が持っているスキルに頼りがちです。IT関連でもしわからないことがあっても、社内で解決できず社外の企業に相談するケースが多く、その場合だと相談料がかかることもあります。このように外部に委託する場合でも社内でITのノウハウが育たないので、結果的に使いこなせる技術者が育たないという循環にも繋がります。

 

そして人だけでなく、システムそのものも古くなっています。その結果として、今までITを使っていた人が退職した途端システムを使いこなせなくなるという現象が起きています。これによって製造業はDXに進むよりも、ITを使いこなせないという課題を抱えるようになりました。

日本の製造業は世界に誇る技術力に対して自負がある

日本の製造業は、自社に対して「技術力が強み」であると考える傾向があります。

 

独立行政法人労働政策研究・研修機構「ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査」によると、自社の強みを「高度な熟練機能を持っている」と答えた企業が33.8%となりました。さらに、企業の人材的タイプについても「ベテランの技能者が多く、熟練技能者集団に近い」が45.7%の企業が回答し、特に企業の規模が小さくなるほどこの傾向が強くなります。このことから、ものづくりはベテランの技術者が行うことが多いです。

 

また、自社の強みとして「ある製品・サービス分野で国際的に高いシェアを持っている」「海外のメーカー向けに機械や部品を供給している」と回答したグローバル競争企業でも、過半数が「新卒者を採用して自社で育成」しています(それぞれ64.3%、55.4%)。つまり、多くの製造業が「技術者を育てる環境がある」と回答しました。

 

このように、今でも日本の製造業の技術力に自信がある、と考えている企業が多い結果となっています。

過酷な労働環境を起因とする人材確保の難しさが原因で、技術継承ができない

戦前の製造業は、職人技を基本にしたものづくりを行っていました。その技術や現場ノウハウは、暗黙知や経験からの判断などによって、属人的で標準化が難しいものでした。

 

しかし、現代は職人技を受け継ぐ人がいなくなっています。「ものづくり産業を支える企業の労働生産性向上に向けた人材確保・育成に関する調査結果」では、ものづくり人材の確保・育成に関する課題として「若年ものづくり人材を十分に確保できない」、「育成を行う時間がない」「指導される側の能力や意欲が不足している」などが多くあげられました。つまり技術を教える人自身も高齢化が進むだけでなく、ノウハウを受け継ぐ若手が集まらない、若手を育成する環境が整っていない現状があります。

 

また、「ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査」では採用後3年以上勤めているものづくり人材が「100%」であると回答した企業は新卒採用が21.6%、中途採用16.9%となっています。つまりそれ以外の企業では、3年以内に離職した人がいると言えるでしょう。

 

さらに、「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果」によると、技術継承が重要だと考えていると回答した企業は6割を超えています。しかし、実際に「うまくいっている」「ややうまくいっている」と回答したのは、わずか5割程度でした。

 

この中で、うまくいっていると回答した企業であげられている理由として、計画的なOJT、指導する側とされる側との円滑なコミュニケーション、自己啓発支援、目標の明確化やモチベーションの高さなどがあがっています。しかし労働環境によっては、これらを完全に揃えることが難しく、結果的に指導を受ける側の離職につながる可能性があります。

 

このような状況もあり、製造業の技術の継承が難しい現状になっています。

 

さて、今回は日本の製造業が陥っている危機についてお伝えしました。

 

今、日本の経済成長率は鈍い状態が続いています。その中で製造業も、新型コロナウイルスによる生産体制の縮小があり、厳しい状況が続いています。今後は、元来の課題であった高齢化と、若手の人材不足によって一層危機的な状況になるかもしれません。

 

これらを含めて、日本の製造業は今変わる必要があります。その一つの方法として、IT化とDXが提唱されています。実際に今リモートワークや作業の自動化によってIT化が進みつつ、日本以外の国は生産プロセスをどんどんIT化しているため、「第4次産業革命」の段階に進んでいます。

 

ただし、日本の製造業はまだITに対する知識が理解できていない、使いこなせる人材がいない、ITにかけるコストの確保が難しいなどの理由からIT化を進められていません。そのほかにも、今の技術力に対する自負や労働環境上で技術継承が難しいなどの理由もあります。

 

とはいえ、ただITを導入するだけでは今後生き残れません。製造業でも、顧客のニーズに対応しながらビジネスモデルそのものを変える必要があります。まずは自社のIT化を行い、今後を見据えながらDXを行いましょう。

 

参考文献

高橋信弘、清原雅彦 、 折本綾子「改革・改善のための戦略デザイン 製造業DX」(秀和システム)
小宮昌人「製造業プラットフォーム戦略」(日経BP)
2020年度(令和2年度)国民経済計算年次推計のポイント(内閣府)
「身の丈IT」とは? 中小企業が抱えるIT活用の課題と成功事例(経理プラス)
なぜ製造業は人手不足なのか?データから読みとく理由と人材確保対策(Nikken→Tsunagu)
2021年版 ものづくり白書(経済産業省)
製造業を巡る動向と今後の課題(経済産業省)
第4次産業革命って何?これから日本は何が変わっていくの?(ココテコ)
第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 (中小企業庁)
中小企業がIT化する際に気をつけたい「導入費」と「維持保守費」の違い(中小企業のIT化ブログ)
システム開発費の内訳は?ITコストの謎(日経クロステック)
製造業を取り巻く環境(工場管理 2019/10 臨時増刊号 )
2025年問題って?少子高齢化が進む日本の未来はどうなる?(tenki.jp)
【製造業】テレワーク導入の課題解決策|成功事例も紹介(KDDI まとめてオフィス)
調査シリーズNo.194 ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
ものづくり人材の確保と育成(経済産業省)
2021年10~12月期四半期別GDP速報 (2次速報値)(政府統計)
製造業DXとは? 課題と事例を踏まえてわかりやすく解説(モンスターラボ DXブログ)
望 第2節 人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性(経済産業省)
人手不足の状況(中小企業白書 2019)
小企業の従業員過不足DIは2年ぶりに上昇(日本政策金融公庫)
ものづくり産業におけるD X (デジタルトランスフォーメーション)に対応した 人材の確保・育成や働き方に関する調査(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
お詫びと訂正(2022 年 1月 14 日)(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
製造業でDXが提唱される理由と押さえるポイントや成功に必須なこと(Coevo)
第1部 「ものづくり企業の経営戦略と人材育成に 関する調査」アンケート調査結果の概要 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
調査シリーズNo.177 ものづくり産業を支える企業の労働生産性向上に向けた人材確保・育成に関する調査結果(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
製造業における人手不足の現状 および外国人材の活用について(経済産業省)

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