近年、勢いを増すネット通販ですが、今や「荷物は希望通りに届いて当たり前」になっていますよね。しかし、それを支える物流業界は、増え続ける荷物量と人手不足など多くの問題に直面しています。なので、このままのやり方を続けていると、物流業界はパンクするかもしれません。
そこで、物流のあり方そのものを変えるためにも、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が高まっています。
ですが、物流業界は典型的な労働集約型産業。荷物を運んだり、積み下ろすといった労働力に対する依存度が高く、デジタル化すらままならないのが現状です。しかしこの記事を読めば、物流業界が生き残るために、DX(デジタルトランスフォーメーション)がいかに重要なのかが明確になるでしょう。
そんなわけで今回は、物流業界に、今なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要なのか、さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進まない理由やその対策についても解説します。
物流業界の現状の問題とは
まずは現在の物流業界では、現在どんなことが起きていて、何が問題視されているのか見ていきましょう。
荷物の小口化による効率性の悪化
クリック一つで注文できるネットショッピングは、消費者にとってはありがたいですよね。しかしそれにより多数の届先に少量の荷物を配送する、個別配送が急増しています。荷物が小口化すると重さや形状がまちまちで、ピッキングや梱包をまとめて行うことができず、作業員の負担が大きくなります。
さらに、荷姿がバラバラなのでトラックに積みにくく、荷台に空きスペースができることも。国土交通省の調べでは、トラックの平均積載率は約4割。6割が空いたままで運行すれば効率が悪くなり、それだけ多くの運転手が求められます。なので、積載率を上げるためにも、異業種や同業と連携して配送のムダをなくすなどの工夫も必要になりました。
過剰サービスの激化
配送が小口化するとともに、ライバル社に対して優位性を出すために「より早く、安く」というサービスが当たり前になっています。しかも「時間指定」や「再配達」など、消費者の要求は多様で厳しくなりつつあります。それでも、請け負わなければ企業間競争に勝てないため、配達や倉庫現場の疲弊はますます深刻に。ですから、AI(人工知能)など最新技術を用いた配送業務の効率化が求められます。
ドライバーの高齢化と過酷な労働環境
過剰なサービスが拡大する中で、物流業界ではドライバーの高齢化が問題となっています。国土交通省のデータによると、トラックドライバーの平均年齢は40代から50代前半で、全産業の平均値よりも10%以上高いのだとか。今後さらに高齢化が進むと、ドライバーがいなくなり必要なときに必要なモノを運べない状況になることも。
しかも、トラックドライバーは長時間運転や重い荷物の積み下ろしなど、肉体的にキツイ作業が多いため、若い人材の確保も進んでいません。このままでは、更なる人手不足が懸念されるので、思い切った労働環境の改善が急がれます。
こうした深刻な課題を持つ物流業界ですが、今後も安心して「モノが届くしくみ」を作るために、デジタル技術を活用した業務の変革が期待されます。
そこで、物流業界のDXについてお話する前に、まずDX(デジタルトランスフォーメーション)とはどんな意味なのかを解説しましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、もともとは「ITによって人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変える」という概念のことを指し、2004年、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏によって提唱されました。日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、2018年に経済産業省が次のように定義しました。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル秘術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
簡単にまとめると、今のDX(デジタルトランスフォーメーション)の意味とは「AI(人工知能)やIoTなど最新のデジタル技術を活用して業務上の課題を解決する」ことですが、単に製品やサービスを変革するだけでなく、企業文化までも変えていく覚悟が必要であると示しています。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)とIT化とは、よく混同されがちですが意味合いは大きく異なります。
ここまでで、DX(デジタルトランスフォーメーション)とはこんなものというイメージが持てたでしょう。ここからは、物流業界におけるDXについて見ていきます。
物流業界にDX(デジタルトランスフォーメーション)は必要なのか
物流業界には「過酷な労働環境」、「人手不足」など様々な課題がありますが、それらの課題はDXによって解決できるのかを考えましょう。
まず、DXを行えば以下のようなメリットが得られます。
業務の生産性が向上する
たとえば、倉庫に在庫システムを導入すれば、入力ミスなどのヒューマンエラーがなくなり、過剰在庫や欠品を防ぐことができます。これにより、配送量が増加しても入出庫や配送がスムーズに進み、作業時間の短縮につながります。
さらに、自動搬送ロボットやコンベアなどを導入することで、モノを持ち上げたり移動するといった力仕事が軽減します。また、タブレット端末などを使って遠隔操作もできるので、更なる業務の効率アップや省人化も期待できます。
同業や異業種とも連携できる
配送トラックは、荷物の積み下ろしに時間がかかったり、店舗への納品時間が重なって、さばききれないことで多くの待ち時間が発生します。これが、ドライバーの長時間労働にもつながっていますが、DXを行えば、デジタルによる情報共有により待ち時間を短縮できます。
たとえば、トラックの走行情報と荷主や運送、倉庫の各社が持つデータを企業の枠を超え連携させることで、お互いのトラックの位置や荷物の中身などがわかります。これらの情報を把握し合えば、荷受けや納品のタイミングを調整して待機時間を減らすことができます。実際、いすゞ自動車や日野自動車は2022年のサービス提供を目指していますが、物流業界全体で待ち時間のムダを減らせば、労働環境も大きく改善されるに違いありません。
消費者へのサービス向上が見込める
物流業界の大きな課題の一つは不在による再配達です。これにより、配送員の激務にさらに拍車がかかりますが、消費者のニーズにはできる限り応えたいもの。
そんな時、AI(人工知能)など最新技術を使えば、再配達を減らせます。たとえば、顧客の注文情報や配送状況などのデータを蓄積して分析することで、自宅にいる可能性が高い時間帯をAI(人工知能)が割り出します。その時間帯に配達すれば、再配達率が下がるので配送員の手間が省け、さらに、顧客にとっても在宅中に荷物が届くのでありがたいですよね。
では、逆にDXを行わなければ、どんなことが起こるのでしょうか。
既存システムの老朽化は、コストが高額になる
長い間、同じシステムを利用し続けると、老朽化、複雑化、ブラックボックス化して新しいシステムを導入してもうまく連携できないことがあります。さらに、老朽化した既存システムは、保守や維持にコストがかかり、システムトラブルやデータ流出などのリスクも高まります。
DXを導入しないと、市場の変化に対応できず利益も伸びない
デジタル化が進むとともに、消費者行動も日々変化します。なので、物流に対する消費者ニーズも、もっと複雑化して厳しくなるかもしれません。しかし、従来のやり方でニーズに応えようとすれば、膨大な時間と人員が必要になります。その結果、利益を上げるどころか、企業間競争に負けて事業が成り立たなくなる可能性もあります。
このようなことから、DXは物流業界に必要不可欠と言えるでしょう。しかしながら、物流業界でのDXはなかなか進まないのが現状です。次でその理由をお話します。
なぜ物流業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まないのか
物流業界においても、DXに関心を持ちDX化を図りたいと考える方は多いはず。しかし、他の業界と比べてDXへの取り組みが遅れているのは、次のような理由があるからです。
アナログ対応が強みになりデジタル化へのモチベーションが上がらないから
消費者は、再配達などの手続きが煩わしい時、顔なじみの配送員に「○○時に配達して」と直接電話で依頼することもありますよね。それでも、対応力を売りにする配送員は、顧客のほとんどのニーズに臨機応変に応えてくれます。
しかし、これは日本特有のこと。たとえば、欧米ではコストの最小化を目指す荷主と、標準対応を売りにする物流会社とは需要と供給が一致するので、業務効率化に向けて変革が進んでいます。一方、日本では、アナログ的な柔軟な対応が顧客には好まれるので、デジタル化へのモチベーションが上がりにくいのです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める人材がいないから
DXに取り組むには、物流現場とITやデジタル分野の知識を持つ人材が必要です。しかし、物流業界には圧倒的にITに詳しい人材が不足しています。それは、物流現場は「荷物」というリアルな存在に関わらなければ、仕事が進まないという現場主義で、今までIT化には縁遠かったからです。
こうしたことから、DXを行えば「何が改善されるのか」、そのためには「何をすればよいのか」という道筋をわかりやすく描く人材がおらず、現場の従業員を動かすことも難しくなっています。
それでは、物流業界でDXを推し進めるにはどうすればよいのかを、次でお伝えしましょう。
物流業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するには
DXの推進を成功させるには3つのポイントがあります。
経営トップが明確な目標を持つ
「DXは最近流行っているから」と経営者自身が、DXの本質を理解しないままスタートさせても、既存業務のデジタル化で終わることが少なくありません。
DXを成功させるには、経営者が目標を明確にする必要があります。たとえば、「システムを導入して残業を20%削減する」など、具体的な施策や経営戦略を提示すれば、社内全体の意識が変わり現場の協力も得やすくなります。
ITに詳しい人材を確保・育成する
物流業界では、特にエンジニアなどのデジタル人材が不足しています。もちろん、外部のIT企業などにアウトソーシングする方法もありますが、コストがかかり、何より、他社にシステム開発を任せていては、新しいアイディアを思いついても、すぐに反映させられません。
なので、日頃から従業員のデジタル教育を進めておくことも大切です。たとえば、「データサイエンティスト」など、DXに役立つスキルを学べる環境整備や、費用面のサポート、資格取得者への表彰制度などを設けると、従業員のモチベーションも上がるに違いありません。
スモールスタートで始める
DXを急ぐあまり、今までアナログで実施していたことを全部取りやめ、完全にデジタルシフトすると、万が一うまく運用できなかった場合の損失は大きくなります。しかも、従業員の士気も下がるに違いありません。なので、多数あるツールの中から、本当に自社に合うツールは何かをしっかり見極めて、様子を見ながら徐々に導入することをおすすめします。いきなり大きな変革を目指さず、小さな成功体験を積み重ねることでDXへの自信につながるでしょう。
さて今回は、物流業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)がなぜ必要なのか、そして、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進まない理由とその対策についても解説しました。
現在、物流業界では「荷物の小口化による効率性の悪化」「物流業界の過剰サービスの激化」「ドライバーの高齢化と過酷な労働環境」など多くの問題を抱えています。
しかし、DXを行えば、「業務の生産性が向上する」「同業や異業種とも連携できる」「消費者へのサービス向上が見込める」などのメリットが期待され、労働環境改善や人手不足の解消につながるでしょう。
逆に、DXを行わなければ、「既存システムの老朽化でコストが高額になる」「市場の変化に対応できず利益も伸びない」などのデメリットにより、企業の倒産リスクさえ高まります。
ですから、自社の変革にとどまらず消費者にも利益をもたらすDXは、物流業界に必要不可欠だと言えます。
しかしながら、物流業界ではアナログ対応の方が強みになるので、デジタル化への一歩がなかなか踏み出せないのが現状です。その上、物流業界にはITに詳しい人材が少ないことも、DX化が進まない要因になっています。
なので、DXを行えばどんなメリットがあるのかを、経営者自らが明確に打ち出して、社内全体を巻き込むことが大切です。そして、DXを進める時は、小さなデジタル化から始めて、徐々に大きな変革を目指すことをおすすめします。さらに、従業員へのIT教育を後押しすることで、デジタル化へのモチベーションも上がるでしょう。
物流は私たちの生活に密着していて、なくてはならない意義のある仕事です。なので、人口減少やECの普及など環境の変化に応じて、物流業界も劇的に変化する必要があります。今後は、最新技術を積極的に導入して、働きやすい現場をつくれば「物流業界は生産性が高い、かっこいい仕事」として、若い世代に認識されるに違いありません。
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