スマホのロック解除時やパソコン起動時など、私たちは生活の中で、毎日何かにログインしたりサインインしたりと認証作業をしていますよね。
これまではパスワード認証や指紋認証が一般的でしたが、最近では自分の顔を鍵にする「顔認証」も身近な存在になってきました。いわば顔パスやつです!
身近な例はスマホのロック解除ですが、今では空港での出帰国検査や金融機関のやりとり、イベント会場の本人確認などでも本格利用の動きが広がっているんです。
一番きびしいであろう「国家や金融機関のやり取りなどで実用化できるレベル」と知ると、その精度の高さがわかりますよね。
この顔認証システムは、処理速度の速さからさまざまなメリットがあるのですが、半面、プライバシーの観点からいうと気になる点も多いのが事実。なにより、「顔」というもっともプライバシーに大きくかかわる部分を差し出すのが不安で、モヤモヤする部分も・・・。
こういうときこそ、よくわからないまま不安感を持つよりも、私たち利用者が正しい知識をしっかり持っておくことが大切です。
そこで、今回は顔認証システムの簡単な仕組みと身近な場所での使われ方、そしてメリットと問題点は何かを整理して紹介しましょう!
顔のパーツを数値化して個人を特定、3次元の導入でさらに精度アップも
さて、その顔認証をザックリひとことで説明すると、「顔」で個人を特定する生体認証の一種を指します。実は顔認証の研究そのものは実は歴史が古く、1960年代から続けられてきたんです。最近この技術がクローズアップされているのは、飛躍的に能力が高まった人工知能(AI)を使うことで、認証の精度が高くなったことが理由です。
認識処理は一般的に大きく2段階に分けられます。
- 第一段階は、画像から顔を探し出す作業。人工知能(AI)を使って、まず顔と思われる領域を特定し、さらに顔のパーツ(目・眉毛・鼻・口など)のそれぞれの長さやバランスを数値化することで特徴をとらえ、個人を認識します。
- 第二段階ではあらかじめ登録しておいた顔画像のデータと、さきほどの「顔検出」で得た画像データを照合し、「本人である」という判定を行います。
顔診断などのアプリを使ったり、Googleフォトで「人物」を特定したことがある人であれば、人工知能(AI)の画像認識能力の高さがお分かりかと思います。怖いくらい賢いですよね!
さらに最近のトレンドとしては3D(次元)顔認証の導入も始まっています。こちらは3次元センサーを使って顔の立体情報を得るので、斜めなどさまざまな角度から認識できるのがすごいところ。また照明の暗さや表情の違い、化粧やひげの有無、顔の向きの違いがあっても対応可能で、なにより写真を用いた「なりすまし」もできなくなるので、さらに認識精度が高くなるんです。
便利だから空港、ライブ会場、ATMやコンビニでも使われている!
顔認証システムを利用するメリットは、次のようなものがあげられます。
ではこのメリットを生かし、最近はどのような場所で使われているのか、具体的な例を見ていきましょう。
空港や東京五輪でのセキュリティチェックに利用
いまもっとも現在進行形で顔認証システムの普及が進み、私たちが利便性を感じやすいのは大人数が行き来する場所、たとえば空港があげられます。
特に事前登録などは必要なく、パスポートを読み取り機にかざし、ミラーに顔を向けてデータが照合されるとゲートが開く仕組み。出張やご旅行でよく利用される方はご存知のとおり、ストレスなくめっちゃスムーズですよね。
ちなみにスミマセン、私は数年海外に行ってなかったので、「そんなん知らんかったわ!」という浦島太郎状態なんですが、実際に最近海外旅行に行ったママ友さんに聞いてみると、
顔認証ゲート??ああ、あれね?初めてでもスッといって簡単だし早かったよ!
とのこと!(ああ・・・早く私も試してみたーい)
また2020年春には、成田空港でチェックインから搭乗まで顔認証システムが使えるようになります。大規模に空港にシステムが導入されるのは世界でもシンガポール・チャンギ国際空港、アメリカ・アトランタ空港に続く3例目。なんと保安検査場や搭乗ゲートでは動画で顔認証ができ、立ち止まる必要すらないんですって!!めっちゃ便利ですやん。
いずれは空港内の買い物や食事なども顔パスでOKという流れになるはずですし、いや、なんかもう未来感がすごいです!
またそのほかの例としては東京2020オリンピック・パラリンピックで、史上初の試みとして全会場で顔認証システムが導入されることが決まっています。こちらはアスリートをはじめ、約30万人といわれる大会関係者の入場時に利用。混雑緩和とセキュリティチェックを目的として利用される予定です。
宇多田ヒカル・ももクロ・ミスチルのライブなどで本人確認に利用
またエンタメの分野では、ライブ会場での本人確認に関しても顔認証技術が取り入れられることが増えてきました。これはチケット購入時に自身の写真を登録しておき、会場入口のカメラで本人確認する仕組み。
なにしろライブ会場では、数万人規模の観客入場を短時間でスムーズに行うという課題もありますが、本人確認を厳格化することで、チケットの高額転売を防ぐ「ダフ屋対策」に期待がもたれているんです。
すでに実施も本格化しており、たとえば宇多田ヒカルさんのライブ「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」での導入が話題になりましたし、そのほかB’zやMr.Children、ももいろクローバーZ、福山雅治さんらがライブで顔認証を導入しています。
私も毎回取りにくいライブチケットを必死で取っているので、転売が防げるシステムはありがたいです・・・!
銀行ATMや店舗の会計でも顔認証システムの導入が検討中
お金のやりとりの分野でも、顔認証は利用が進められています。セブン銀行では先日、顔認証技術に対応したカメラが搭載された新型ATMを開発。2024年までに店舗に導入を進める予定です。
現時点では、この顔認証を利用したサービスはまだ実行されていませんが、他銀行や決済事業者と話し合いが進めば、将来的にはATMカードなどを使わずに顔認証だけでATMから現金を引き出すことも可能になります。今後はATMでの顔認証による口座開設の実証実験が予定されています。
また、セブン‐イレブン・ジャパンは、顔認証システムを店舗に取り入れた省人型店舗「三田国際ビル20F店」を実証実験としてオープンしています。端末で一度顔登録をしておけば、あとは顔認証によって自動でドアが開く仕組み!
またセルフレジによる会計にも顔認証システムを使い、このシステムを共同開発したNECの社員を対象に、社員証と顔認証のどちらでも支払いができるようになっています。
プライバシー侵害のおそれがあるとして、規制論も上がっている!
上記のように並べてみると、スマホの利用時からライブやイベント、海外旅行を楽しむときなど、私たちのかなり身近なところで顔認証システムがどんどん浸透していることが分かりますよね。
さらに今後、オフィスの入退室はもちろん、日常の買い物などもっと一般的な場面で利用が広がってくるんだろうな、ということは容易に想像できます。ただ、便利なことがたくさんある半面、もちろん危惧すべきこともあります。
もっとも心配になるのは、「私たちのプライバシーは守られるのか」ということです。
たとえば米マイクロソフトのブラッド・スミス社長兼CLO(最高法務責任者)は、公式ブログにおいて、「顔認識技術は、プライバシーや表現の自由などに対し、問題を抱えている」と警鐘を鳴らしました。
いまどきは、フェイスブックやインスタグラムなどで顔写真とともに名前、誕生日、出身校などを公開している人も多いですよね。
もし街中に設置された防犯カメラで顔認証が可能になれば、検知した写真とSNSの写真を結び付け、名前や生年月日はもちろん、行動パターンやあなたがどんな人なのかが瞬時に結びついてしまいます。
もちろんそれが犯罪に利用される危険性もありますし、反対に警察などが私たちを監視することも簡単になります。政治集会やデモに参加した人のデータベースをつくることだって可能なんです。
次に怖いのが誤認識。たとえばカメラがうまく識別できずに別人と認定されれば、誤認逮捕される可能性もゼロではありません。つまり悪用すれば、大きな人権侵害につながりますよね。
えっ、まだルールがないの?認識精度が高いのがわかった分、そんなん恐怖やん!!
そこで、顔認証システムが乱用されないためのシステムづくりとして、アメリカでは次のような動きも出始めています。
マイクロソフトによる政府への提言
その一つが、上記であげた米マイクロソフトによる提言。マイクロソフト自身も顔認識システム「Face API」を展開していますが、それでもブラッド・スミス社長はさきほどのブログの中で、政府に対して規制の提案を呼びかけています。
- 法執行機関や国家安全保障機関の使用に一定の制限を設けること
- 人種のプロファイリングを禁止すること
- 公共スペースで使用する場合はその旨を告知すること
- 誤認識された人を保護すること
またスミス社長は、政府だけでなくテクノロジー企業も責任を持つべきで、この顔認証システムの利用について「業界としての明確な基準」を定めるべきだとも語っています。
サンフランシスコ市で顔認識技術の使用禁止条例が可決
また最近、米サンフランシスコ市では、人権や人種平等の観点から、市の行政機関による顔認識技術の使用を禁じる条例を可決しました。
「シークレット・サーベイランス停止条例」と呼ばれるこの条例は、サンフランシスコ市政府の業務にのみ適用されているので、企業や州政府、サンフランシスコ国際空港内で顔認識技術の使用などには影響を与えないのですが、顔認識技術の使用禁止の条例は米国で初めて。
ただし現地でも、プライバシーがたとえ守られても犯罪捜査の妨げとなったり、技術の進歩が遅れるのではという反対論も根強くあります。
つまり整理すると、顔認証システムにはプライバシーや表現の自由が奪われる可能性もはらんでいますが、世界的にみても、今はそれを規制するための法律やルールが整備されておらず、ようやく規制の動きが出始めたところ。ですからそのまま乱用されれば、残念ながらスーパー監視社会になってしまうという恐れがあるというのが現状だということです。
今後、マイクロソフト社やサンフランシスコ市の提言や動きをベースにして、どのような形で利用するのが一番ベストなのか、国レベルや業界レベル、そして私たちの中でも議論を深める必要がありますよね。
さて今回は、顔認証システムの簡単な仕組みと身近な場所での使われ方、そしてメリットと問題点は何かを整理してご紹介しました。
顔認証システムは、人の顔のパーツの特徴を人工知能(AI)が認識・照合して本人を認識する仕組みで、最近では3次元顔認証を使った技術も導入され、精度がさらに高まっています。
このシステムは本人確認のための時間が短く、犯罪への抑止効果が高いということなどから、国内では人が多く集まる場所、たとえば空港での入国審査、ライブの入場時など身近なシーンで使われるようになったほか、ATMや店舗などでも使えるような実験が実施されています。
しかし便利な半面、技術の利用に関する制限を定めたルールや法律は存在しないため、残念ながら現状のままでは、プライバシーや表現の自由などが「大丈夫、守られている!」とは言い切れない状態です。
そこでアメリカなどでは政府や業界に対し、法整備やルールをつくるよう働きかける動きが出てきており、実際にアメリカの都市部では、市政府の業務での顔認識技術の利用を禁じる条例が制定されました。
また別の角度からみれば、顔認証システムはただ「便利」「防犯性が高い」という以外にも、お年寄りの徘徊や迷子の防止、居眠り運転の防止など、思わぬところで私たちの暮らしに役立てられる面もあります。東日本大震災のとき、津波で流された写真を持ち主に返すために使われたこともあるんです。
もちろん科学技術の進歩には陽の面も陰の面もあります。顔認証システムも同様ですが、今後の流れとして私たちの生活に深くかかわってくるのは確かですから、国や業界による法整備やルールづくりが広がるように、私たちもさまざまなシーンで興味を持ったり話し合ったりしていなければいけませんよね!