iPhone Xで採用されたFace IDにより、顔認証技術は身近な存在となりましたよね。顔認証技術を活用した顔診断アプリ「そっくりさん」や恐怖のメイク落としアプリ「MAKEAPP」も大人気です!
研究によると、顔認証の正確度は2014年から2018年までの間に、なんと20倍!も向上、誤認識率は4%から0.2%にまで減少しました。
この精度向上を受けて、スマホアプリ、企業や金融サービス向けのセキュリティツールとしてだけでなく、空港における出入国管理や警察による犯罪捜査などの、国家レベルのセキュリティ対策にすら適用され始めていますが、はたしてどのような成果が得られているのか気になるところです。
今回は、警察による犯罪捜査に着目し、はたして顔認証技術が犯罪被害を未然に防止できるのか、その可能性について一緒に考えてみましょう。
それではまず最初に、そもそも顔認証の仕組みについて確認しておきましょう。
同じ人物なのか、どうやって判断しているのか?
顔認証技術を活用して同じ人物かどうか判断する手順は以下のとおりです。
- 「顔」を検出する
画像の端から四角い領域を少しづつずらしながら、顔の特徴に合致する四角い領域、すなわち「顔」の映像領域を探し出します。 - 「特徴点」を見つける
「顔」の目、眉、鼻、口、輪郭などに「特徴点」と呼ばれる、顔の特徴を示すポイント(例:瞳の中心、鼻のふくれている点、口の両端など)を見つけて印をつけてゆきます。 - 「特徴点」を比較する
「特徴点」の位置や、「特徴点」間の距離を比較することにより同じ人物かどうか判断します。
はたして特徴点の位置や距離だけで判断できるのか気になるところですが、実は特徴点が数個程度一致するだけでも、その確率は数百万分の1と極めて低く、認証技術としての充分な精度を持っています。
なお、目や鼻などの各パーツの形状は複雑で、しかも人ぞれぞれで異なることから、今まではコンピュータで特徴点を見つけるのは極めて困難な作業でした。
そこで、ディープラーニングを活用して膨大な顔写真について学習することにより、特徴点を的確に検出できるようになったため、認証精度を大幅に向上させることができました。
ところで研究によると、私たちは平均して約5,000人の顔を見分けることができると言われています。私たちは脳に記憶した多数の目、鼻、口などの各パーツの形状とそれぞれのレイアウトパターンとの比較を行うことにより、他人の顔を識別します。
どうやら私たちが「似ている」と感じる感覚とは違うようですね。私たちがそっくりさんを見て感じる「おかしさ」を、AI(人工知能)は理解できないでしょう。
(参考)ディープラーニングについてはこちら
それでは次に、顔認証技術の活用事例について確認してみましょう。
顔認証技術の活用事例
まず最初にご紹介するのはアミューズメント施設における活用事例です。
顔パスでユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ入場可能に
具体的には、最初の入場時に顔写真を撮影し登録しておいて、2回目以降は最初の入場時に撮影した顔写真との照合を行うというもので、照合の所要時間はわずか1秒と、まさに顔パスでの入場を実現しています。
同様な事例としては、チケットの不正転売対策として、コンサート会場への入場時の本人確認に顔認証技術を活用している事例もあります。テーマパーク、遊園地やコンサートなどのイベント会場における本人確認が一瞬で完了できるようになったわけですから、顔認証は極めて有効な技術です。
デメリットとしては、現時点では認証精度が100%ではないため(99%以上100%未満)正しく認証できない場合もありますが、その場合は手作業や目視確認という、従来の手順で行えるため、特に大きな問題はないでしょう。
次にご紹介するのは、警察が容疑者特定に顔認証技術を活用した事例です。
渋谷ハロウィン事件の軽トラ横転犯を逮捕
具体的には、事件現場と周辺に設置された防犯カメラによる動画や、ネット上に公開されていた動画に含まれていた約4万人の映像と、警察が持っている免許証や犯罪歴データについて、顔認証システムにより照合作業を行いました。
確かに4万人の群衆から犯人特定できた技術は素晴らしいと思う反面、ちょっと危険な感じもしますよね。
先程のUSJ入場時の本人確認のケースと渋谷ハロウィン事件のケースとの違いは、間違えてしまった場合の影響の大きさにあります。USJの場合であれば、間違えた場合には手作業や目視確認の対応で済みますが、誤認逮捕のもたらす影響は致命的で、到底許されるものではありません。
渋谷ハロウィン事件のケースでは、警視庁は威信をかけて厳格な捜査をしてくれたかもしれませんが、認証精度100%未満の現時点では、冤罪の存在を考えると、容疑者特定への活用はまだまだ早すぎるでしょう。
現時点では容疑者特定のための技術としてはまだまだ大きな不安を感じてしまいますが、今後、例えばストーカー行為のように今後犯罪に結びつく可能性が高いケースへの適用が期待されています。
ストーカー犯罪の未然防止に期待
年間の警察への相談件数は約2万件、そのうち約1割が警告、約1%が逮捕に至る状況です(殺害に至るのは更にレアケース)。相談100件のうち1%逮捕の状況では警察としても全ての相談への手厚い対応は工数的に困難で、早急なIT技術適用が求められています。
逗子ストーカー殺人事件では、警察は被害者からの相談を受け、その深刻さから自宅周辺のパトロールを行っていたにも関わらず犯罪を防ぐことはできませんでした。やはり、人間が行うパトロールだと、その頻度にも限界があり24時間監視し続けるというのも現実的ではありません。
先にご紹介した渋谷ハロウィン事件では容疑者特定後、自宅までの経路にある防犯カメラ映像を追跡することにより、なんと、犯行当日の足取りまで把握できているんです。
ということは、顔認証技術を活用すれば、逗子ストーカー殺人事件は未然に防げていた可能性があります。つまり、渋谷ハロウィン事件のように顔認証技術を厳格に活用できれば、今後犯罪に結びつく可能性が高い人物(ブラックリスト登録者)の行動を監視することにより、深刻な犯罪を未然に防止できるかもしれません。
一方で、全ての犯罪がブラックリスト登録者によるものとは限りません。将来的には街全体を監視することにより、人間だけでは予測困難な異常を検知し、全ての犯罪を未然に防止できることが求められるでしょう。
実は、既に顔認証技術を使用した街全体の監視システムを運用している事例がありますので確認しましょう。なお、本事例では現在世界トップの精度を誇るNECの顔認証技術が採用されています。
アルゼンチン ティグレ市による街中監視システム
現在、ティグレ市の事例では、NECの顔認証技術は犯罪者や行方不明者の捜索のみに活用されています。ただし、犯罪者の捜索はブラックリスト登録者との照合のみであり、初犯による犯罪の検知機能までは実現できていません。
(参考)ティグレ市による街中監視システムには、顔認証技術ではありませんが、NECの映像解析機能を活用することにより、バイク事故防止のためのノーヘルライダー検知機能、麻薬取引を検挙するための行動検知機能、盗難車両特定のためのナンバープレート認証機能などがあります。
特に、ナンバープレート認証機能の効果は絶大で、盗難車を約80%減らすことに成功しています。
さて、ここからは将来の監視システムについて求められる要件について考えてみましょう。
将来の監視システムにはブラックリスト登録者以外の全ての人々についても認証できる必要あるため、より高速な顔認証技術が求められるでしょう。
また、犯行を事前に検知する機能も必要で、計画性がある犯行であれば、準備段階における危険物の購入や犯行現場の下見行動などを、犯行の予兆モデルとして蓄積しAI(人工知能)で検出できる機能、また、突発的な犯行の予測は困難なため、平常時とわずかに異なる違和感をAI(人工知能)が検知してアラームをあげる機能も求められるでしょう。
ただし、ブラックリスト登録者以外の全ての人々について認証する場合には、①顔認証精度100%の実現、②パスワードに相当する私たちの顔画像データの流出を防ぐ(文字のパスワードと異なり変更できません)と共に、過度な監視体制構築やプライバシー侵害に活用されないよう厳重な管理ルールを定める、の2点が前提条件となります。
現時点で適用できそうなのは、事前に特定できている不審者あるいは容疑者による犯罪防止でしょうか。まずは精度100%の実現ですね。街全体の監視システムの実現まではもう少し時間がかかりそうですが、きっと実現できるでしょう。
以上、今回は顔認証技術が犯罪被害を未然に防止できるのか、その可能性について一緒に考えてみました。
- 同じ人物なのか、どうやって判断しているのか?
「特徴点」と呼ばれる、顔の特徴を示すポイントの位置や、「特徴点」間の距離を比較することにより同じ人物かどうか判断します。 - 顔認証技術の活用事例について
- 顔パスでユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ入場可能に
- 渋谷ハロウィン事件の軽トラ横転犯を逮捕
現在の顔認証精度100%未満の状況では、テーマパークなどへの入場時の本人確認には有効ですが、犯罪の容疑者特定にはまだ早すぎるでしょう。
- ストーカー犯罪の未然防止に期待
今後犯罪に結びつく可能性が高い人物の行動を監視することにより、深刻な犯罪を未然に防止できるかもしれません。 - アルゼンチン ティグレ市による街中監視システム
現状の技術では街全体の監視までは実現できません。運用開始にあたっては、「顔認証精度100%の実現」「パスワードに相当する私たちの顔画像データの流出を防ぐと共に、過度な監視体制構築やプライバシー侵害に活用されないよう厳重な管理ルールを定める」の2点が必要となります。
渋谷ハロウィン事件のように、厳格に活用できれば極めて有効な顔認証技術も、AI(人工知能)と同じように、活用にあたって問題となるのが私たち人間の「悪意」です。
顔認証の場合のパスワードに相当する顔画像データの運用については、極めて慎重な姿勢で望む国や企業がほとんどです。例外は政府が中心となって顔認証技術に多額の投資を行い、積極的に活用している中国くらいでしょう。
ただし、実社会への適用は極めて重要で、現在NEC、パナソニックなどは技術面で世界トップレベルにありますが、実社会への実装を進めないとせっかくの優れた技術を生かすことができなくなってしまいます。
日本の治安の良さ(悪意が他国に比べて少ない)は、実社会への適用にあたっては有利な状況にあるはずです。早急に実社会への適用を進め、他国を大きくリードできる立場になることを期待しましょう。
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