現在、日本は少子高齢化の影響もあり農業人口の減少が心配されていますよね。このままでは、毎日当たり前のように食べている、国産野菜やお米もなくなってしまうのではと不安になる人も多いでしょう。
ですが近年、ドローンの出現により農業の形が驚くほど変わりつつあります。ひと昔前までは、ドローンといえば軍事用で使われる特殊なものというイメージもありましたが、テレビの空撮などが増えてすっかりお馴染みとなりましたよね。そんなドローンに、農作業の一部を担わせて効率化を図ろうという動きが活発になっています。
さらに農業用ドローンの普及は民間だけでなく、国(農林水産省・国土交通省)も後押ししており、まさに官民一体となって、農業が抱える課題を解決しようとしているのです。
そこで今回は、実際に農業でドローンがどのように使われているのか、またドローンの普及を応援する国の取り組みと、今後激変するであろう農業の姿までお伝えします。この記事を読むと、あなた農業に対するイメージが変わるに違いありません。
農業でドローン活用がなぜ進んでいるのか?
まず、日本の農業においてドローンが普及し始めた一番の原因は、農業従事者の高齢化と後継者不足です。現在の農家の平均年齢は、なんと70歳近いとか。そうなると、種まき、収穫、出荷など一年中過酷な重労働を担うには難しい年齢ですよね。
そこで、農業用ドローンの活用が注目を浴びるようになりました。ドローンを使用すれば、少ない人手で短時間に多くの作業が行え、農作業の効率化やコスト削減にもつながることが理由です。
こうして、農業用ドローン機体登録数は、平成29年から30年の間に6倍以上も急増し、まさに高齢化した日本の農業問題を解決する突破口になったのです。
農業におけるドローン活用事例
では具体的に、農業用ドローンがどのように使われているのかを見ていきましょう。
農薬・肥料散布
従来は主に無人ヘリコプターで実施されていましたが、平成28年からドローンによる農薬散布が始まりました。ドローンはヘリコプターに比べて至近距離で、しかも必要なところだけピンポイント散布ができるので環境にもやさしいですよね。
受粉
受粉といえば、リンゴなど人の手で一つ一つ…というイメージがありますよね。しかし、リンゴ木などは背丈も高く、花の状態や天候などタイミングもあり重労働です。
そこで、東光鉄工と青森県立名久井農業高校が連携して受粉ドローンの実証実験が行われています。方法としては、花粉に蒸留水や砂糖などを混ぜた液を、ドローンのプロペラが起こすダウンウオッシュ気流で霧状にして、まんべんなく花にかけるというしくみです。
播種(たねまき)
鳥取県日南市などの農業法人やJAにおいて、水田に直接種をまく直播栽培で活用されています。特に中山間地帯の不正方形・狭小な土地では短時間で作業ができ、農家の負担を軽減しています。
収穫物運搬
山間部など収穫した作物を運ぶ労力は大変ですが、ドローンによる運搬が可能になれば、時間と労力の削減になりますよね。広く普及するには、重量物を運搬時の機体の安定性や、長時間のフライトに耐えうるバッテリーの改良などが課題となっています。
センシング
ドローンに搭載した高精細カメラなどで撮影した画像から、作物の生育状況をリモートで検知します。また、画像を分析することで、生育状況のばらつきなども可視化され、農薬散布が必要な場所をピンポイントで見つけたり、収穫量の予測、病害虫や雑草の発生状況も把握できます。これで、効果的な農業経営が可能になるでしょう。
現在、ヤマハ発動機株式会社は民間企業3社と提携して、農業散布とセンシングをパッケージにした「YSAP」を発表しています。この「YSAP」には、農業経営者管理ツール「アグリノート」も連携していて、スマホやタブレットで広大な複数の農地の管理や、農作業の記録も付けられます。スマホ一つで田畑を管理できるなんて画期的ですよね。
鳥獣被害対策
ドローンに高性能な赤外線カメラを搭載し、鳥獣が活動する夜間に空撮を行い動画を解析していきます。その動画から鳥獣の生育域をマッピングしたり、生息数も自動集計でき、今まで困難だった現地調査や目視確認も楽になりました。
また、シカなどの獣道まで可視化できるため、捕獲用の罠を設置する労力や時間も大幅に削減できるでしょう。
農業用ドローンの活用を推進する国の取り組み
このようにドローンは日本の農家にとって、なくてはならない存在になりつつありますが、まだまだ課題も多いのが現実です。このままでは、少子高齢化が進み、農家はなくなってしまう…という危機から国もドローンの活用を後押しするようになりました。そのことについて、詳しくお伝えしましょう。
農業用ドローンの普及目標を立てる
農林水産省は、農薬・肥料散布や、センシング、栽培管理、鳥獣被害対策など利用分野ごと、2022年をめどに実装可能な技術開発目標を立てています。
この他、受粉ドローンについては散布ノズルの改良、センシングではカメラの解析精度の向上や対象品目の拡大、費用対策などにも取り組んでいます。このように、国の意欲的な目標設定によって、農業用ドローンの普及は加速化していくでしょう。
官民協議会の設立
農業用ドローンの普及拡大には、利用者である農業者だけでなく、ドローンメーカーやサービス事業者などの情報共有や連携が必要になります。そのため国土交通省は、官民協議会を設立しました。
またドローンに関わる事故情報なども共有することで、「あっ!そんな事故があるのか」と注意喚起になり、安全な使用につながっています。こうして、国と関連機関が密接に協力することで、お互いのニーズやシーズをくみ取り、ドローン活用の幅も広がるでしょう。
ドローンに関する規制を緩和
今までは農業用ドローンに関する国の規制が厳しく、それが普及の足かせになっていました。
たとえば
- ドローン操縦者の他に補助者の配置義務
- 日中(日の出から日没まで)に飛行させること
- 目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視すること
- ドローンによる農薬空中散布には、国や都道府県に散布計画を提出のこと
など、ただでさえ忙しい農家にとっては、承認を得るまで大変でした。
これではドローンの普及を妨げてしまうということで、農林水産省は2019年に「農薬の空中散布における技術指導指針」を廃止しました。その後、国土交通省によって「空中散布を目的とした飛行マニュアル」、農林水産省による「農薬の空中散布ガイドライン」が新設され、ドローンの規制が以下のように緩和されました。
- 飛行する農地周辺に人や車の立ち入らない区域を設けることで、「補助者」なしでのドローン操縦が可能
- 目視外飛行、夜間飛行も可能(飛行マニュアルに基づき)
- ドローンによる散布計画の提出は求めない
など、安全を考慮した上で規制が大幅に見直されました。
これで、小型ヘリコプターより安価で、しかも操縦しやすいドローンが、農家にも気軽に導入されやすくなるでしょう。また、近年ドローンの普及により日本の農家も変貌を遂げようとしています。次に農業の形が変わる驚きの姿をお伝えします。
農業用ドローン活用から見える今後の農業の姿
「農業」は、きつくて大変というイメージから「現代的なビジネス」へと変わってきました。前述のように、国がドローン導入を後押しする中、ドローン関連事業者も農業に参入することで新たな「ビジネス」が創出しています。
そこで、新しい農業のビジネスの形についていくつか見てみましょう。
新しい農業用ドローンの開発
たとえば商社は、農業用ドローンを開発するベンチャー企業への出資を始めています。例を挙げると、三菱商事は日立製作所と共同出資でスカイマテックス(東京都中央区)を設立し、農薬散布ドローン「はかせ」や、作物の生育状況を解析するドローン「いろは」を開発しました。
そして、作物や品種などのデータを収集、AI(人工知能)で解析することで、薬剤散布や作物の病気診断もドローンが自動で実行できるよう開発を進めています。単なる機体の販売だけでなく、農業におけるトータルな的なサービスが受けられると、人手不足の農家にとっては助かりますよね。
ドローンが田畑の成長を見守る!
次に、国際航業(航空測量企業)が展開するのは営農支援サービスです。農家の人が自分でドローンを飛ばして田畑を撮影するのは大変ですよね。そこで、営農支援サービス「天晴れ」は、人工衛星やドローンから撮影した田畑の画像を解析し、作物の生育状況を診断してお伝えするというサービスを始めました。
今まで、収穫する順番を決めるため、早朝から目視作業していた農家も、ドローンが撮影した画像を一目見るだけで判断できるようになり、余った時間が増えたのだとか。
ドローン米の発売
またドローンを使って育てた「ドローン米」(ドローンジャパン)も発売されています。これは農薬や化学肥料に頼らない無農薬で栽培したお米ですが、「ドローンを農薬のイメージではなくオーガニックと安全な食のイメージにつなげたい」という想いから作られました。
その上、作物が生育する様子をドローン撮影し、「ドローン米」のパッケージにQRコードをつけて、映像が見られるように工夫されています。このように、ドローンを使ってお米作りを「見える化」することで、消費者に安全を伝えられますよね。
農業用ドローンのシェアサービスも
最後にご紹介するのは、農業用ドローンのシェアリングサービス。展開するのはドローンベンチャーのナイルワークスと住友商事です。従来に比べて安価になったとはいえ、まだまだ気軽に手が出せないドローンですよね。そのため、ドローンをシェアし合うことで、最大のネックだった初期費用を大幅に下げ、2020年以降東北地方を中心にサービス展開の予定です。
またナイルワークスが開発した農業用ドローン「T-19」はタブレット端末を使って操作でき、センチメートル単位で機体制御や自動飛行が可能。しかも作物の生育診断もできます。このようなドローン操作は高齢者にとっては難しくても、若い世代にとってはゲーム感覚で魅力的ですよね。
これからの農家は、高齢者ではなく若い世代が、端末を持ってデータを分析しながら、楽しく農作業を行うかもしれません。
さて、今回は農業用ドローンの活用最前線と、それにより農業が激変する姿もお伝えしました。
まず、ドローンが農業に実際に使用されている事例を振り返ってみましょう。
- 農業・肥料散布
- 受粉
- 播種(たねまき)
- 収穫物運搬
- センシング
- 鳥獣被害対策
このようにドローンの出現は、農家の人手不足解消や農作業の効率化につながっています。そして、今までの重労働から解放されて農家の人々の生活にも余裕ができるでしょう。
また、農業用ドローン活用に関する国による規制も大幅に緩和され、だれでも気軽に利用しやすくなりました。それに、ドローンを開発するベンチャー企業なども続々と現れ、農業が新しい「ビジネス」へと進化しています。
- 商社がドローンベンチャー企業に出資
- 営農支援サービス
- 「ドローン米」の発売
- ドローンのシェアリングサービスなど
そして、将来的にはドローン操縦者も必要なくなり、すべてのシステムを組み込んだ「自動航行」ドローンが登場するかもしれません。そうなると、24時間、天候に関係なく、しかも家にいながらにして農業を営めるようになりますよね。
今まで農業は「経験と勘がないとできない」と思われていましたが、ドローンに管理を任せてしまえば、初心者でもベテランと変わらないクオリティで農産物を生産できるに違いありません。将来、若い世代にももっと注目され、本格的な「就農ブーム」がやってくるでしょう。
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