IBMのWatsonといえば、2011年に人間のクイズチャンピオンに勝利したことで有名ですよね。大型冷蔵庫10台分のスペースに2,880個のプロセッサーと15テラバイトのメモリーを詰め込んだ当時のWatsonは、書物にして約100万冊の情報を読み込み、当時人気のクイズ番組「ジョパディ!」に参戦、2名の歴代クイズチャンピオンを破り賞金100万ドルを獲得しました。(賞金は全額を慈善事業に寄付)
人間のクイズチャンピオンに勝利、ということは当然、WatsonはAI(人工知能)と考えてしまいがちですが、IBMはWatsonをAI(人工知能)ではなく、IBMが提唱するコグニティブ・コンピューティングというIT技術による商品としています。
今回は、AI(人工知能)とWatsonとの違い、IBMが提唱するコグニティブ・コンピューティングおよびWatsonが提供するサービス例についてお伝えします。
AI(人工知能)とWatsonとの違い
それではまず最初に、 AI(人工知能)とWatsonとの違いについて確認しましょう。
実はWatsonもディープラーニングをはじめとした機械学習を利用している点では、AI(人工知能)とWatsonとの間に違いはありません。
AI(人工知能)の説明としてよく言われるのが「記憶や学習といった人間の知的な活動をコンピューターに肩代わりさせることを目的とした研究や技術のこと」です。この人間の知的な活動をコンピューターに肩代わりさせる、ということから、AI(人工知能)が自ら思考し行動することにより私たちの仕事を奪ったり、私たちをいずれ攻撃するのではないか、といった懸念も耳にしますよね。
こういった懸念に対しIBMはAI(人工知能)とWatsonとの違いとして、Watsonは学習と推論は行うが思考はしないため、人間のように情報を組み合わせて新しい何かを思いついたり自ら決定したりしないこと、さらに、あくまで人間を主体とし、人間を支援することが目的であると主張しています。
人間の知的な活動をコンピュータに肩代わりさせることが目的であるAI(人工知能)に対し、Watsonは人間が判断するためのサポートに徹する、という違いがあります。
つまり、Watsonは人を主体とし、人を支援することを目的としている点がAI(人工知能)とWatsonとの大きな違いなのです。
Watsonの生い立ちについて
次に、Watsonの歴史について簡単に確認しましょう。
2006年、IBMは自然言語(私たちが日頃使用している言葉)による質問に迅速かつ正確に答える「質問応答システム」としてWatsonの研究を開始しました。
5年後の2011年、それまでの研究成果をアピールすべく、米国のクイズ番組「Jeopardy!」に挑戦し見事、人間のクイズチャンピオンに勝利し一躍注目を集めました。その後、クイズに解答する質問応答技術の手法を一般化することにより、ヘルスケア/医療をはじめとする様々な分野への適用を進めていったのです。
2014年、Watson専門の事業部「IBM Watson Group」が発足、Watsonをクラウドサービスとして提供するなど事業化に向けた取り組みがスタートしました。
現在、IBMは医療/教育/販売/製造業/金融/法律など幅広い業種に対しWatsonの各種サービスを提供することにより、コグニティブ・コンピューティングを推進しています。
コグニティブとは日本語で「認知」を意味します。IBMはコグニティブ・コンピューティングを以下のように定義しており、それを具現化したのがWatsonです。
「人間が話す自然言語を理解し、根拠を基に仮説を立てて評価して、コンピュータ自身が自己学習を繰り返して知見を蓄えるテクノロジーを活用した、コンピューティングの新しい概念」
それでは次に、人間を支援することが目的であるWatsonが、どのようなサービスを提供しているのか見てみましょう。
Watsonが提供するサービス
Watsonが提供するサービスより5点を紹介します。
なるほど、いずれもとても便利そうな「人間を支援する」サービスばかりですよね。
以上、AI(人工知能)とWatsonとの違い、IBMが提唱するコグニティブ・コンピューティングおよびWatsonが提供するサービス例についてお伝えしました。
- AI(人工知能)とWatsonとの違い
Watsonの目的はあくまでも人間の支援であり、自らを主体として行動するAI(人工知能)とは異なるとIBMは主張しています。- Watsonの生い立ち
Watsonは2006年に「質問応答システム」として研究開始、2011年に人間クイズチャンピオンに勝利した質問応答技術の手法をサービスに適用、現在は様々な業種にサービスを提供しコグニティブ・コンピューティングを推進しています。- Watsonが提供するサービス
自動会話プログラム(チャットボット)開発/画像認識/音声認識/性格分析/感情と文体のトーン分析などのサービスがあります。
IBMは、Watsonをはじめとするコグニティブ・コンピューティングが、今後の技術革新の時代を象徴する言葉になると確信しています。また、主力であるWatsonを従来より存在しているAI(人工知能)という枠にとらわれない製品と位置づけ、コグニティブ・コンピューティングを推進するビジネスを展開していく姿勢です。
IBMは、あくまで人をサポートすることを目的とした新たなIT技術として、コグニティブ・コンピューティングを提案しています。AI技術を用いてそれを具現化したシステムがWatsonなのです。
目的の違いこそが、AI(人工知能)とWatsonとの最大の違いと言えます。今後もWatsonの進化に期待していきましょう!
参照元
人間にクイズで勝ったコンピューター「ワトソン」の素顔
IBMがWatsonを「AI」と呼ばない本当の理由
「IBM Watson」、ビッグデータの延長上で応用段階に 2013年にはパッケージ製品、クラウド・サービスを提供へ
今すぐ使えるWatson API/サービス一覧
2016年 新年のご挨拶
自動会話プログラム(チャットボット)を簡単に開発するためのサービスです。ユーザーからの自然言語による入力を理解し、適切な応答を返すことができます。Watsonが提供するプログラミングツールを使用することにより、対話の流れを直感的な操作で作ることができます。
2)Visual Recognition
画像認識サービスです。大量の画像や映像のタグ付けや分類、あるいは画像を分析して特定のモノや状態を検出する業務に活用することができます。少ない画像枚数による短時間の機械学習であっても、製品の認識/分類や製造ラインにおける欠陥検出において高い精度の画像認識を実現することができます。
3)Speech to Text
音声認識サービスです。ディープラーニングにより音声の音響的な特徴および言語知識に基づき正確にテキスト化することができます。日本語のほかにも米語/イギリス英語/フランス語/中国語など複数の言語に対応しています。
4)Personality Insights
性格分析サービスです。性格特性を個性、欲求、価値の切り口で分析します。分析のためには最低1,200単語以上のテキストを入力が必要です。就職時のマッチング、ビジネスにおける顧客とのコミュニケーション改善などに活用することができます。
5)Tone Analyzer
メールなどのテキストデータについて言語分析を行い、メール作成者の感情と文体のトーンを検出するサービスです。感情としては怒り/不安/喜び/悲しみなどを検出することができます。文体については確信的/分析的/あいまいなどのスタイルを検出します。