近年のAI(人工知能)ブームの影響でしょうか、日頃のテレビやWebニュースなどにおいて、Deep Learningに関する事例を時々見かけるようになりました。それにしても「Deep」という表現がちょっと印象的ですよね。深く学習する、なんてなにやら難解なイメージがあります。
一方で機械学習に関する記事も時々見かけますが、いずれもAI(人工知能)に関するキーワードであることは分かっているのですが、両者は同じことなのか、あるいは違うことなのか、違うのであればその違いは何なのかちょっと気になる事でしょう。Deep Learningは、最近のAI(人工知能)ブームのきっかけとなった、画期的な技術とも言われています。
ということで、今回はDeep Learningと機械学習の違い、またDeep Learningの適用事例について確認しましょう。
Deep Learningと機械学習の違いについて
まず最初に、Deep Learningと機械学習の違いについて確認しましょう。
機械学習とは
機械学習は、大量のデータに統計的手法を適用し繰り返し学習して作成した学習モデルを、様々な物事に適用することにより分類や予測を行う技術です。ここで述べた「統計的手法」としては、ロジスティック回帰/K平均法/決定木学習/クラスタリング/ニューラルネットワークなどの様々な手法がありますが、実はDeep Learningも機械学習の統計的手法の一つなんです。
ニューラルネットワーク
機械学習の統計的手法の一つであるニューラルネットワークとは、人間の脳の神経細胞であるニューロンの動作をヒントにモデル化された手法です。ニューロンが一列に並んだ状態を一つの「層」と考え、入力層、中間層(隠れ層)および出力層より構成されるニューラルネットワークにおいて、中間層(隠れ層)が複数存在するモデルがDeep Learningです。中間層(隠れ層)を多層にすることで情報伝達を増やし、分類精度や予測精度を向上させることが可能になりました。
Deep Learningが他の機械学習の手法と異なるのは、大量のデータを学習し分析/予測を行う際の判断基準となるデータ(特徴)をDeep Learningによって自ら選定できるようになった点にあります。
例えば、簡単な例として、アイスクリームの売上を予測する場合を考えてみましょう。売上予測の判断に使用すべきデータとしては、気温や降水量が考えられます。他の機械学習では、判断に使用すべきデータを人間が選定し指定してやる必要がありますが、Deep Leariningによって学習の中で自ら選定することができます。人間が選定せず自ら選定できるようになるなんて、すごいですよね!
Deep Learningが得意な分野について
Deep Learningが得意な分野としては画像認識処理、自然言語処理およびレコメンデーション機能などがあります。
1.画像認識処理
例えば、犬と猫の違いを判断するために猫の「特徴」を言葉で定義しようとすると、耳の形/ヒゲの長さ/目の大きさ/鼻の形など、それこそ無限の「特徴」の定義を行う必要があります。Deep Learningであれば、大量の犬と猫の写真を学習することにより、犬と猫の違いの「特徴」を見つけ出すことができます。
2.自然言語処理
ここでは、翻訳処理へのDeep Learning適用について紹介します。Deep Learningにより、入力文と翻訳後の出力文のセットを大量に学習することで、入力文と翻訳後の出力文とに対応づけられている「特徴」(文章の内容を数値表現したもの)を定義することができます。また、学習の量が多ければ多いほど、より多くの「特徴」が得られるため翻訳の精度を向上させることができます。
3.レコメンデーションシステム
顧客の大量の購買履歴(購入日/商品名/価格など)/カスタマレビュー文章をDeep Learningで解析することにより、購入活動と関連性の高い「特徴」を選定/数値化することができます。得られた「特徴」に基づき、お薦め商品を抽出のうえ顧客に提示することができます。
なお、どのデータを「特徴」とするかの選定をDeep Learning自らが実施しているため、人間側はその判断根拠が理解できません。このため、私たち人間にとってDeep Learningはブラックボックスと見えてしまいます。
それでは次に、実際のDeep Learningの適用事例について見てみましょう。
Deep Learningの適用事例
ここではDeep Learningの適用事例として、画像認識処理/自然言語処理/レコメンデーションシステムの3件について紹介します。
1.眼底画像の診断支援
最初にご紹介するDeep Learning適用事例は画像認識処理に関する事例です。佐賀大学とソフトウェア開発の(株)オプティムは、Deep Learningによる眼底画像の診断支援に関する共同研究を進めています。
人間の目は目視で血管の構造が判別可能なため、眼科医による目視検診だけで診断が可能な疾患もあります。しかしながら、目視検診による医師の作業負担が大きいこと、医師の診断能力にばらつきがあること、また、専門医の地域格差が存在する、といった事情から治療の遅れによって症状が進行してしまうという問題がありました。
このような問題に対し、臨床画像データをAI(人工知能)に画像解析させることにより眼底画像の診断精度/スピードを改善し、緑内障/糖尿病網膜症/加齢黄斑変性の早期発見/治療を目指しています。具体的には、佐賀大学が保有する膨大な過去の臨床画像データおよび診断結果臨床ビッグデータとしてDeep Learningを活用し解析し、その推論結果を診断に活用しています。
将来的には、眼底画像から心筋梗塞/脳血管障害/アルツハイマー型認知症など新たな疾患の発症予測や、モバイル機器を活用した簡易診断による早期発見といった、新しい眼底診断/治療手法の創出についても共同研究を進める予定です。
なお、このオプティムにAIZINE編集部が取材に行き、その内容についてあれこれ聞いた記事もありますので、ぜひ読んでみましょう。
2.Google翻訳
Deep Learning適用事例の2件目は自然言語処理に関する事例です。2016年、Google翻訳にDeep Learningを採用することにより翻訳精度が飛躍的に向上し話題になりましたよね。Deep Learningを採用するまでは、短い挨拶や極めて単純な日常会話などには対応できても、少し長めで複雑な文章になると、ちょっとこのままでは使えないな、といった翻訳結果でしたが、Deep Learningを採用後は、このまま使えるのでは、と感じさせてくれるレベルまで向上しました。Google翻訳の例として、Newsweek英語版サイトの記事見出しをBing Microsoft Translatorで翻訳した結果と比較してみましょう。
Deep Learning採用前は単語ごとの対訳データで翻訳をしていくイメージでしたが、Deep Learning採用後は単語の意味だけでなく、接頭辞や語幹/単語の位置なども考慮し、文章全体の流れを分析して翻訳できるようになりました。
3.ニッセンのWeb通販サイト
最後にご紹介するDeep Learning適用事例はレコメンデーションシステムです。通販大手のニッセンは従来の紙ベースのカタログ販売による売上低下への対策として、Web通販へシフトしています。同社が持つ過去の顧客購買履歴やカスタマーレビューなどの膨大なデータを活用することにより、レコメンド精度を高める取り組みを実施しています。
新たな取組として、顧客の商品レビュー文章より顧客が「カワイイ」と感じる特徴を読み取り、約50万点の商品画像と組み合わせることにより「カワイイ」と顧客が評価してくれる可能性の数値化にもチャレンジしています。顧客が「カワイイ」と感じてくれる可能性を数値化することにより、新商品デザインの参考にする計画もあるようです。
以上、今回はDeep Learningと機械学習の違い、またDeep Learningの適用事例について確認しました。
- Deep Learningは機械学習の一部です
- Deep Learningは機械学習の数ある統計的手法の一つであるニューラルネットワークにおいて、複数の中間層(隠れ層)を持ちます
- Deep Learningは分類/予測を行う際の判断基準となる「特徴」を自ら選定/定義することができます
- Deep Learningは「特徴」を自ら選定/定義するため、分類/予測の判断根拠が人間には理解不能となり、ブラックボックスとして見えてしまいます
- Deep Learningの適用事例(眼底画像の診断支援/Google翻訳/ニッセンのWeb通販サイト)
Deep Learningは今回の事例でご紹介したように、今後も様々な業種における採用が進み大きな成果が期待されている一方で、「暗黙知」を見える化する、という新しい役割も期待されています。
Deep Learningは、私たちが見つけることができない、分類/予測を行う際の判断基準となる「特徴」を選定/定義できるように、言葉では表現できない「暗黙知」を大量のデータの中から抽出し定義してくれるようになるかもしれません。実現できれば、職人スキル/ノウハウ継承への適用、更には職人の技を持つロボットも夢ではなくなりますよね。
私たちの身の周りには暗黙知ではないですが「なんとなく分かっているけど、うまく説明できないもの」がたくさんあって、互いの誤解などにつながってしまいコミュニケーションが円滑に進まないケースも多いのではないでしょうか。そのような場合には双方がAI(人工知能)を介して会話することにより納得できるようになる時代が来るかもしれません。