近年、IoTはますます身近に浸透し、テレビやエアコン、照明までもインターネットにつながり私たちの生活は便利になりましたよね。そんな中、少子高齢化で悲鳴を上げる介護の現場でもIoTの活用は注目されています。
特に日本では高齢化のスピードが速い上、2025年には団塊の世代が75歳になることから、介護業界の人手不足はより深刻になると言われています。さらに、2035年には「介護が必要な人」に対して「介護を担う人」が68万人も足らなくなるとのこと(経済産業省発表)。これでは介護の現場は崩壊してしまうでしょう。
そうならないためにも、まず介護業務を少しでも減らそうとIoTを積極的に取り入れる介護現場が増えてきました。それにより、介護スタッフのムダな動きも少なくなり、本来の業務に集中できるようになったとのこと。つまり、IoTは介護スタッフや介護業界にとっては救世主に違いありません。
では、実際にどんな形で介護現場にIoTが導入されているのでしょうか。そこで今回は、実際に介護現場で活用されているIoTの事例と、IoT導入のメリット、デメリットについても解説します。
介護でのIoTとは
まず最初に、介護でIoTが活用されるようになった理由をお伝えしましょう。
日本では将来、高齢者が人口の3分の1を超えるともいわれています。現代でも介護に対する人材が不足していますが、それに伴い老人ホームや介護老人福祉施設などの介護現場では、さらに圧倒的に不足すると予想されています。
そこで、介護現場の人手不足解消のために導入され始めたのがIoTです。
そもそもIoTとは「モノのインターネット」のこと。基本的なしくみは「モノ」にセンサーをつけてインターネットに接続することで、「モノ」の状態や位置などの情報を人に伝えます。ですから、介護にIoTを使えば「見守り業務」など、離れた場所からでも居室の状態を知ることができます。まさに介護の課題の課題を解決するには、うってつけですよね。
このようなことから、「人の目」の代わりになるIoTが、介護現場で利用されるようになりました。
介護現場でのIoT活用事例
それでは、実際に介護現場でIoTはどのように活用されているのか、具体的に見ていきましょう。
エアコンの「見守りサービス」(パナソニック株式会社)
この「見守りサービス」では、入居者の各居室にあるエアコン本体のセンサーで室内の気温や湿度を計り、そばに設置したドップラーセンサーで入居者の在室や睡眠状態などをしっかりチェックします。すなわち、目に見えない生活状況をIoTによって「見える化」しようというものです。
またこのサービスしているエアコンは、スタッフが居室に行かなくても遠隔操作でエアコンの温度調整もできる優れもの。さらに、室温などのデータはクラウドサーバーに送信され、各居室の状態は管理室のパソコンに一覧表示されます。そして「室温が30度なのにエアコンがついていない」「夜間なのに在室していない」などの異常を検知すると、パソコン画面に赤く警告が表示されます。もちろん、ナースコールのPHSとも連動しているので、たとえパソコンに気づかなくてもすぐに対応できますよね。
次にお伝えするのは、スマホを利用した見守り型センサーです。
高齢者見守りセンサー「LASHIC(ラシク)」(インフィック株式会社)
「LASHIC(ラシク)」は介護現場のニーズから開発されたサービスで、Wi-Fi環境があればすぐに使用できるお手軽感があります。
たとえば、親機をインターネットに接続すれば、コンセントにつないだ子機(センサー)は床に置いたり壁に掛けたり設置も自由です。また人感、温度、湿度、照度センサー内臓で、取得したデータはクラウド上に保存されます。そして、専用のアプリをインストールすればスマホで室内の状態が確認できるので、「長時間人の動きがない」など異常を検知するとすぐに駆けつけられます。
実際に、訪問介護看護「なでしこ」(埼玉県鴻巣市)では、2020年3月からの巡回サービスを利用する独り暮らしの高齢者宅に「LASHIC(ラシク)」を設置しています。この取り組みで、訪問介護時間外の生活状況が把握できれば、認知症の前兆を見つけたり、事故の予防にもつながるでしょう。
続いては、運動が楽しくなる!IoTを利用したウェアラブル端末をご紹介します。
ウェアラブルセンサー「Moffバンド」(株式会社Moff)
「Moffバンド」は手首や腕、足首などに装着できるアイテムで、「からだの動きをセンサーで感知する」というシンプルなデバイスです。もともとは、アプリと連携して動きに合わせて音が鳴る「おもちゃ」として開発されましたが、「高齢者の機能訓練にも使えるかも」と介護施設などで取り入れられるようになりました。
介護施設では、スタッフと一緒に手足を動かしたり、廊下を歩いたり、体力が衰えないようにトレーニングを行いますが、介護スタッフは毎日の付き添いや、個人別のプログラム作りが大変ですよね。
でも「Moffバンド」を手首や足首に装着して、アプリ画面の動作見本に合わせて身体を動かせば「ベットから立ち上がる」「お風呂をまたぐ」など日常生活に有効な筋力トレーニングが行えます。
それに、トレーニングの結果も自動で記録されるので「昨日よりたくさんできた!」と大きな励みになります。これをきっかけに、身体を動かす習慣がつけば自立支援につながり、介護スタッフの負担も軽減するはずです。
この他にも、介護現場で大変なのは排せつのお世話でしょう。大人のおむつ替えは体力も使いますし、適切なタイミングでトイレに誘導するのも難しく失敗すると高齢者の尊厳を傷つけてしまいます。そんな介護の悩みを解決するのが、次にお伝えするIoTによる「排尿お知らせサービス」です。
排せつ予測デバイス「DFree(ディーフリー)」(トリプル・ダブリュー・ジャパン)
「DFree(ディーフリー)」は、下腹部に付けたセンサーが膀胱のふくらみを察知して、スマホの専用アプリに「そろそろトイレに行きましょう」と排尿のタイミングを知らせてくれるサービスです。また、尿のたまり具合も0~10段階で通知され、余裕を持ってトイレに誘うことができます。
しかし、夜間などトイレに誘導するのが難しいこともありますよね。そんな時には「非接触おむつセンサー」が役に立ちます。
非接触おむつセンサー「Happiness絆」(株式会社オフィスワン)
「Happiness絆」の「非接触おむつセンサー」はベットのシーツとマットレスの間に敷く厚さ0.35㎜のシート型センサーです。そして、排せつ・排便に伴うお尻部分の重量変化を検知して、付属のコントロール装置がIoT見守りシステム「Happiness絆」に通知するというもの。また、タブレットの管理画面では対象者の部屋が点滅し、アラートで介護スタッフに教えてくれます。
従来は、おむつの中に取り付ける「おむつセンサー」が湿度や温度を計測していましたが、身体に直接触れるため排せつのたびに交換・消毒が必要でした。
しかし「非接触おむつセンサー」なら、肌に直接触れないので衛生的で、おむつ替えのたびに交換や消毒の必要もありません。また、個人にあった尿量の設定もできるので、必要以上のおむつ替えが減り、睡眠の妨げも少なくなりました。もちろん、センサーが検知した毎日の尿量データから「昨日は水分を取り過ぎたのかも」など体調管理もできます。
介護にIoTを活用するメリットとは
ご紹介したように、多くの介護現場でIoT技術を取り入れる動きが進んでいますが、では、介護にIoTを導入するとどんなメリットがあるのかお伝えします。
離れた場所からでも居室や人の状況が確認できて安心
「見守りセンサー」によって室温だけでなく人の異常な動きなどが感知でき、介護スタッフがすぐに駆けつけられます。また施設の玄関に「センサー」をつけておけば、徘徊や事故の予防にもつながり安心です。
トイレや排せつが上手くケアできる
決まった時間に機械的におむつを交換するのではく、「おむつセンサー」によってタイミングよくトイレに誘えば、失敗も少なくなり自立を促します。
一人一人の生活状況がしっかり把握できる
従来は介護スタッフが各部屋を巡回して「人の目」で確認していましたが、「センサー」により一日の行動履歴が一覧表示されると、一目で入居者全員の状態が確認できます。ですから、「睡眠時間が極端に少ない」など体調不良を早期に発見できるでしょう。
介護スタッフの負担が軽減され、入居者に丁寧に接することができる
介護スタッフは朝のミーティングから始まり、おむつ・リネン交換、配膳・食事介助、レクリエーション企画、介護記録作成…など超多忙です。その合間にナースコールで呼ばれたり、面会者の手続きなど限りなく仕事があります。
そこで「センサー」が24時間入居者を見守れば、「ナースコール」されてもすぐに対処しなくてよい場合がわかったり、効率のよい仕事ができます。
また、介護スタッフの気持ちに余裕ができれば、会話やレクリエーションなど入居者と関わる時間も増えるでしょう。特に、高齢者は「話を聞いてもらいたい」など人と関わることで元気になることもあります。それに前向きになると「やりたいこと」が増えて「生きる張り合い」が出てくるに違いありません。
介護施設のコストを削減できる
介護にIoTを導入してスタッフの仕事が軽減すれば、残業もゼロになり人件費の削減になります。もちろん、IoT導入費用はかかりますが、長い目で見れば安定した施設経営につながるでしょう。
介護にIoTを活用するデメリット
このように介護の現場にIoTを活用すると多くのメリットがありますが、実はデメリットにも目を向けなくてはなりません。IoTは「インターネット」と「モノ」が結びついて、人の生活をより便利にしていますが実は落とし穴もあります。次にIoTを使うことでどんな問題が生じるのか、詳しく見ていきましょう。
プライバシーが侵害される
センサーによって24時間見守られているということは、見せたくない部分まですべて見られてしまうということですよね。介護スタッフにとっては、心拍や呼吸数、睡眠時間などが管理できると便利ですが、入居者にとっては一人の人間として抵抗ある方も多いのでは。これからは、プライバシーの守り方も考えなくてはなりません。
セキュリティ面が心配
インターネットで繋がっているので、ハッキングなどにより個人情報が流出する可能性があります。また、悪意のある第三者が施設に攻撃をかけてシステムが動かなくなると、人の命にかかわるかもしれません。安全性を見極めて導入する必要があります。
IoTに頼りすぎて事故が起こることもある
「居室にセンサーを取り付けているから大丈夫」「センサーが反応しないからまだおむつ替えの必要はない」など「センサー」の数値に頼りすぎていると、重大な事故に気づかないかもしれません。たとえば入居者が自分で「センサー」を外したり、故意に壊してしまうと正確な情報を得ることができないことも。
なので、IoTに100%頼るのではなく、「人の目」を補うというスタンスで上手に利用することが大切です。
このようにIoTにはメリットとデメリットがありますが、今後も介護現場にはますます必要になるでしょう。そこで、未来の介護の姿についても考えてみましょう。
介護現場の未来
将来、介護を担う人材が不足するのは確実で、仕事の負担を軽減するのにIoTの導入はもっと進むに違いありません。しかし、IoTを導入して「それで終わり」ではなく、「センサー」から得た多くの情報(睡眠時間や呼吸数、心拍数など)をうまく使いこなすことがこれからの課題になります。
しかし、現在は介護スタッフの業務が多く、なかなかデータを管理して使いこなせる人材が育っていません。それに、IT関係は苦手という人も多いですよね。
なので、「ほむさぽ」(株式会社ビーブリッド)のような、外部の介護IT支援サービスなどをうまく利用するのも一つの手です。できないことはプロにお任せして仕事を分業して、介護スタッフの負担を減らしましょう。
それに、未来の介護現場には、今よりもシンプルで使いやすく安価なIoTや介護ロボットがどんどん導入されるでしょう。そして、介護の仕事は「きつい、汚い、忙しい」というイメージから、iPadなどのタブレットをさっそうと使いこなす「最先端でスマート」な仕事に変貌するに違いありません。
さて、今回は介護現場でのIoTの活用事例と、IoT導入のメリット、デメリットについても解説しました。
まず、介護現場でのIoT活用事例として
- エアコン「見守りサービス」(パナソニック株式会社)
- 高齢者見守りセンサー「LASHIC(ラシク)」(インフィック株式会社)
- ウェアラブルセンサー「Moffバンド」(株式会社Moff)
- 排せつ予測デバイス「DFree(ディーフリー)」(トリプル・ダブリュー・ジャパン)
- 非接触おむつセンサー「Happiness絆」(株式会社オフィスワン)
をご紹介しました。
そして、介護にIoTを導入するメリットは
- 離れた場所からでも居室や人の状況が確認できて安心
- トイレや排せつが上手くケアできる
- 一人一人の生活状況がしっかり把握できる
- 介護スタッフの負担が軽減され、入居者に丁寧に接することができる
- 介護施設のコストを削減できる
また、IoT導入のデメリットとしては
- プライバシーが侵害される
- セキュリティ面が心配
- IoTに頼りすぎて事故が起こることもある
などが考えられます。
これからの日本は、少子高齢化が進み介護の需要はますます高まります。ですが、介護現場にIoTを導入すれば「仕事の効率化」だけでなく、入居者のモチベーションも上がり「次の生きがい」も見つけられるでしょう。まさに、IoTが今後の介護を支えていきます。
そして「入居者のお世話が楽しくなる」介護スタッフと、「どんどん元気になる」高齢者が増えるに違いありません。
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