2011年にiPhone 4Sと共に登場した人工知能(AI)アシスタント「Siri」は、iPhoneに話しかけることによりさまざま操作が可能になるという、当時としては極めて画期的な製品でした。
同じ頃に人工知能(AI)アシスタントを提供できていたのはアップルのみで、その後アマゾンがAlexaを提供するまでにはSiriの登場から3年、またグーグルがGoogle Assistantを提供するまでには、Alexaの登場からさらに2年かかりました。Siriが当時、いかに先進性ある存在であったかが分かりますよね。
ところがその後、アマゾンとグーグルがアップルを大きく上回るスピードで機能強化を続けた結果、アップルは人工知能(AI)でアマゾンやグーグルに完全に遅れをとってしまいました。Siri発表時にはあれだけ先進性あったのに、なぜこのようなことになってしまったのか気になるはず。
ということで、今回はアップルが人工知能(AI)で出遅れてしまった理由、また、アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来るのか、について一緒に考えてみましょう。
アップルが人工知能(AI)で出遅れてしまった理由
出遅れてしまった理由は、アップルの秘密主義と個人情報の扱いによるものと言われています。
アップルが秘密主義だったから
アップルの新製品・新機能の発表会は毎回、全世界の注目を集めて行われます。過去の発表会では「いったいどんな製品が」と期待と興奮でいっぱいの聴衆に対し、iPod、iPhoneやiPadなどの革新的な製品発表を続けることにより、その都度熱狂的なファンを増やし続けてきました。
この発表会でファンを魅了する手法として徹底されてきたのが、プレゼント箱の中身は絶対に教えない、という「秘密主義」です。アップルは研究開発の内容が外部に絶対に漏れないように秘密主義を徹底して貫きました。これはグーグルがベータ版(正式公開前の試用版)を積極的に一般公開しているのに対して、対照的な方針ですよね。
ところが人工知能(AI)研究においては、研究者が互いのアイディアや研究結果を自由に情報交換することが最善の方法と言われています。(参考:フェイスブック人工知能研究所 所長ヤン・ルカン「隠れて研究をしていると後れをとる」)
秘密主義により、優秀な人工知能(AI)研究者がアップルに行きたがらない、またアップルの研究者が社外に飛び出してしまうといった問題が発生していたことから、近年では秘密主義を撤回し、トップクラスの人工知能(AI)研究者の採用を積極的に進めています。
アップルの個人情報の扱いが厳しかったから
個人情報の扱い方については、アップルと競合他社には大きな違いがあります。
競合他社の場合、多数の利用者が日々登録する情報を広告に活用したり(グーグル、フェイスブック)、商品販売に活用する(アマゾン)ことにより利益を生み出すビジネスモデルであるため、個人情報は欠かせない存在となっています。
これに対して、アップルはiPhoneやiPadなどの製品販売によって利益を出すモデルであることから、むしろ個人情報には興味を持っていない、とも言われています。また、アップルはユーザーの利益を考慮し、個人情報の取り扱いについては競合他社よりもはるかに厳しい基準を設定しています。
競合他社が個人情報をクラウドの豊富な処理能力で集計・解析しているのに対して、アップルはiPhoneなどの製品本体内で個人情報の処理を完結させる手法を採用しています。それは「ユーザーのデータから収益を上げるな」がアップルの方針だからです。
ところが、この手法だと機械学習用のデータ収集やデータ処理を全て端末内の限られたパワーだけで行う必要があるため、競合他社に対して不利な状況になってしまいました。
近年のフェイスブックによる個人情報取扱に関する多数のセキュリティ問題(例:性格診断により得られた個人情報を販売してしまったケンブリッジ・アナリティカ事件)を考えると、アップルの徹底した個人情報保護主義は正しい判断かもしれませんが、この厳しい基準が競合他社に対する遅れ発生の原因の一つとも言われています。
一方でアップルは競合他社に出遅れていると言われながらも、人工知能(AI)に対する取り組みは進めています。次に、人工知能(AI)の未来に向けたアップルの最近の取り組み事例3件について見てみましょう。
人工知能(AI)の未来に向けたアップルの取り組み事例3件
事例1:Siriがいつものルーチンワークをまとめて実施してくれる
Siriは私たちのiPhoneの操作内容を日々記録・解析することにより、私たちの行動パターンを学習しています。
例えば、あなたが会社から帰るとき、家族に今から帰るメールを送信し、電車の中で音楽を聴いて、自宅最寄りの駅前のコーヒーショップでいつものコーヒーを注文する、といった一連のルーチンワークを、あなたがSiriに対して「今から帰る」としゃべるだけで対応してくれる「Shortcuts」という機能をiOS 12で提供しています。
事例2:Face IDで顔がそっくりな一卵性双生児も識別可能になるかも
Face IDはiPhone Xに初搭載された顔認証システムで、顔に投射した3万ドット以上の目に見えない赤外線ドットを撮影のうえ、顔の凹凸などを計測し構築した顔の3Dモデルにより照合を行います。なお、顔の3DモデルはiPhone本体内に保管されており、クラウドに送信されることはありません。
Face IDを他人がロック解除できる可能性は100万分の1程度と、従来技術Toucu ID(指紋認証)の5万分の1程度より大きく改善されていますが、それでも一卵性双生児で誤認証してしまう可能性があります。
この問題への対策としてアップルは、顔の表皮下の静脈パターン(一卵性双生児でも異なる)を顔認証に使用する特許を既に申請しており、今後のFace IDでは双子や精巧に作成されたニセの顔マスクであっても完璧に見分けることができるようになるかもしれません。
事例3:Apple Watchが健康状態を常にチェックしてくれる
Apple Watchには、私たちの健康状態をチェックしてくれる、人工知能(AI)を活用した機能が搭載されています。
- 転倒検出機能
Apple Watchには2,500人、25万日分のデータに基づくさまざまな転倒パターンがモデル化・登録されており、モーションセンサーにより転倒を検出できます。また、転倒して1分間反応なければ通報する機能も備えています。 - 各種計測機能
心拍計測および心電図計測の機能を備えています。いずれも既にポータブル計測装置が存在していますが、これらの装置のデザインは日常的に体に装着することに大きな抵抗感がありました。オシャレなApple Watchであれば抵抗なく日々の計測ができますよ。
アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来るのか?
次に、アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来るのか、について考えてみましょう。
最初に説明した出遅れの理由の1つ目「秘密主義」についてアップルは既に撤回しており、外部より優秀な研究者の引き抜きによる人工知能(AI)開発体制強化を行っています。
例えばグーグルから機械学習研究の第一人者でGANs発明者であるイアン・グッドフェロー氏や、同じくグーグルで機械学習や検索チームを指揮してきたジョン・ジャナンドレア氏を迎える、などの実績があります。
出遅れの理由の2つ目である「個人情報の扱い」については、ジョブズ時代に設定した「競合他社よりもはるかに厳しい基準」はむしろ正しい判断で、今後は競合他社に対する大きな強みとなるでしょう。
また、先にご紹介したApple Watchが開拓中のヘルスケア市場にはグーグルも既に参入していますが、アップルが徹底した個人情報保護主義に基づき今まで構築してきた、個人情報をiPhoneなどの製品内に安全に格納する仕組みや、端末間のデータ受け渡しにおける暗号化技術(iMassage/FaceTimeで対応済)などにより、未来においてはアップル一人勝ちの状況になっているかもしれません。
以上のことより、アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来る可能性は十分にあります。
以上、今回はアップルが人工知能(AI)で出遅れてしまった理由、また、アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来るのか、について一緒に考えてみました。
- アップルが人工知能(AI)で出遅れてしまった理由
出遅れてしまった理由は、アップルの秘密主義と個人情報の扱いによるものと言われています。
1)アップルが秘密主義だったから
人工知能(AI)研究においては、研究者が互いのアイディアや研究結果を自由に情報交換できる環境が欠かせませんが、アップルの秘密主義により優秀な研究者がアップルに行きたがらない、またアップルの研究者が社外に飛び出してしまう、といった問題が発生していました。
2)アップルの個人情報の扱いが厳しかったから
個人情報の取り扱いについては競合他社よりもはるかに厳しい基準を設定し、機械学習用のデータ収集やデータ処理を全て端末内の限られたパワーだけで行う必要があるため、競合他社に対して不利な状況にあります。
- アップルの人工知能(AI)に対する取り組み事例を紹介
1)Siriがいつものルーチンワークをまとめて実施してくれる
2)Face IDで顔がそっくりな一卵性双生児も識別可能になるかも
3)Apple Watchが健康状態を常にチェックしてくれる
- アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来るのか?
アップルは秘密主義を既に撤回、外部より優秀な研究者の引き抜きによる人工知能(AI)開発体制強化を行っており、最近行われた人工知能(AI)知能テストでは、SiriがAlexaを上回りGoogle Assistantに次ぐ2位に浮上、今後のSiriのさらなる進化が期待されています。また、ジョブズ時代に設定した「競合他社よりもはるかに厳しい基準」は正しい判断で、今後競合他社に対する大きな強みになると予想されることからも、アップルが人工知能(AI)王座を奪回できる未来が来る可能性は十分にあります。
もともとアップルは新しいテクノロジーについては、それが完璧になるまでは慎重に対応する傾向があります。この点でSiriは例外ですが、発表後に積極的な機能強化を行わなかった背景として、秘密主義や個人情報の扱いといった理由以外に、アップル自身が(Siriで活用してみたものの)現在の人工知能(AI)技術をそれほど信用していない点もあるかもしれません。
顧客に対し、グーグルなどの競合他社が「サービス」を提供するのに対し、アップルは「ハードウェア製品」を提供するという違いがあります。グーグルなどが顧客のデータを利益に変換するために人工知能(AI)技術が欠かせないのに対して、アップルの場合には魅力的な製品提供にあたり、現在の人工知能(AI)技術は競合他社ほど必要としていないのかもしれません。
今後人工知能(AI)技術の完成度が進み、ある段階になって時点で、今までアップルが過去に何度もやってきたように、新技術(人工知能(AI))を活用した画期的な製品により競合製品を一掃する未来が来るかもしれません。今後、アップルがどのような革新的な製品を私たちに見せてくれるのか、期待して待つことにしましょう!
コメントをどうぞ