現在、日本の株式市場に出ている注文の八割以上は自動機械によって出されています。アメリカでは事情がさらに進んでいて、西暦2000年にゴールドマンサックスでは600人を超えるディーラーを擁していたものですが、2017年にはたった二人です。主流はクオンツファンドと呼ばれるコンピュータによる高速自動取引になっているのです。
クオンツファンドは、それぞれの金融機関などが独自に開発していますが、エクセルなどの表計算ソフトによるシミュレーションを大規模にした程度のものから、ディープラーニングなどのAI(人工知能)を駆使した株式市場分析に進化しつつあるようです。
クオンツファンドやAIファンドは人間による株式市場分析とどう違うのでしょう。自動取引による株式市場はどのようなものになっていくのか、そして人間による取引は、締め出されてしまうのか、それをお伝えしましょう。
量と速度では人間は機械にかなわない
クオンツとは定量的なデータ解析に基づく分析手法のこと。
人間の分析員であれば、株式に影響がありそうなあらゆるデータの中から、とくに影響が深そうなデータを拾い出して、分析を行います。人間が扱えるデータの量には限りがあるからです。
特に、インターネットが普及してからは、入手できるデータの量が大幅に増えました。その中で、どのデータに注目するかが、株式投資分析員の腕の見せどころでもありました。
しかし、コンピュータであれば、どれほど膨大なデータであろうと、高速に、しかも休みなく分析処理し続けることができるのです。扱えるデータの量と速度に関しては人間は全く太刀打ちできません。
クオンツファンドにはできないこと
それでは、質に関してはどうでしょうか。クオンツファンドに扱えるデータは基本的には数値だけです。しかし、人間の判断には、経験や勘、好き嫌い、場合によっては占いなどの神秘的データも活用されます。こういうものは数値化できませんから、従来のクオンツファンドには扱えませんでした。
例えば、
とくに直観は、自分でもその結論に至った筋道を説明できないので、機械に移し変えることはできません。
まだ人間にしかできないことがあると思うと安心しますよね。ところが、それを乗り越えようとするのがAI(人工知能)による株式市場分析なのです。
AIファンドとは何か
クオンツファンドにAI(人工知能)を加えて進化させた株式市場分析がAIファンドです。
今ではAI将棋やAI碁でも、もはやAI(人工知能)がなぜそう判断したか人間には理解できなくなっているそうです。
AIファンドでも、AI(人工知能)が自分で作り出した株式市場分析手法を使うので、人間にはAI(人工知能)がその株式売買の判断に至った道筋がわかりません。まさに、コンピュータが直観を獲得したかのように見えます。
遂に直観まで得た自動機械。最早人間の出る幕はないのでしょうか。
AIファンドの問題点
株式投資ということを厳密に考えれば、それは株式を買うことでその企業を応援することであり、株主として経営に影響力を与えるということです。言い替えれば、株式を買うことは、たとえ僅かでもあってもその企業の将来に関るということなのです。
クオンツファンドやAIファンドにはそのような観点がありません。
また、
人間の取引でもしばしば起こることですが、株価が下がり始めると、みんなが一斉に売りに出るので、益々急激に値下がりする、ということがあります。
脅かすわけではありませんが、仮に、自動機械による高速売買が原因で、リーマンショックのような株の大暴落が起こったとしましょう。AIファンドは株式市場分析手順が人間にはわからない「ブラックボックス」ですから、どうしてそうなったのか、という説明すらできません。AIファンドには株式取引結果に対する「責任がとれない」のです。
たとえ問題があるとわかっていても、クオンツファンドやAIファンドによる超高速自動株式売買を止めることはできないでしょう。
それでも、経済活動には社会的責任がともなう、という考えに基づいて、全てを機械に任せてしまわず、ある程度は人間が関り続ける、ということも大切でしょう。