AI(人工知能)は人間を超えるんじゃないか!と昨今叫ばれていますが、そのAI(人工知能)は自動運転や囲碁、将棋など何かに特化したAI(人工知能)のことを指していると考える方も多いですよね。
これまでも「ディープラーニング」の技術によって、自分で学ぶAI(人工知能)が開発されてきましたが、確かに人間の「見る」「聞く」「話す」「運転をする」など限定的な機能でした。
でも最近、まわりの環境に応じて柔軟に判断したり、物事を処理できる「知能を持つAI(人工知能)」、すなわち人間の脳に限りなく近づけるAI(人工知能)の研究が進んでいます。そして、日本はもちろん世界中のAI(人工知能)研究者や関連企業もすでに開発を進めています。
えっ!人間の脳を本当に再現することなんかできるの?と驚きますよね。そうです、AI(人工知能)は人間の脳の仕組みを再現することで、人間の能力に近づいています。
そこで今回は、AI(人工知能)が人間の脳を模倣して、とうとう「人間を超える?」そんなあり得ないような事が、あり得る理由についてお話ししていきましょう。
ゆくゆくはロボット自体が過去の成功を振り返り動作を変えていくから?!
たとえば人間の赤ちゃんは、いろんな物の名前や特徴を成長しながら自然と学んでいきますよね。歩くことでも、転びながらいつの間にかバランス感覚を習得していきます。
すなわちAI(人工知能)は、囲碁・将棋のように限定されたことは人間を超えることができても、「経験」を積んで技術を習得するという「知性」を持った行動がまだまだ苦手でした。
まず、ロボットに「ボトルにキャップを乗せ、回して締める」という、ちょっと複雑な目標を与えます。今までは、一つ一つ人間が動作をプログラミングしていましたが、その過程をロボット自体に考えさせるんです。
どのように考えさせるのかと言うと…
まずロボットのアルゴリズムに報酬関数を組み込み、「うーん、こうしたら失敗するのか…」と試行錯誤を繰り返させます。そのうち、ロボットが任務完了に近づいた動きをすると、そうでないときに比べて点数を高くしていきます。ロボットにとっての成功報酬は点数で、この点数を学習回路にフィードバックしながら、ロボットがどのような動きをすれば高い点数をもらえるのか学んでいきます。
そんななか、任務の最初と最後を与えるだけ、たったの10分で作業をマスターしたという事例も出てきました。他にも、洋服のハンガーを棚に置いたり、レゴブロックを組み立てたり…いろいろな作業のやり方を自らが学習していくようになりました。
私たち人間は、朝起きて、お湯を沸かして、コーヒーを入れて、新聞を取って…と何気なくやっている作業が多いですが、実は複雑な動きの繰り返しなんです。蛇口をひねって水をヤカンに入れて、ガスの栓を開けて…そして、曜日によって時間や内容も変化しますよね。
こんな複雑な動きを、経験から学ぶロボットが学習してくれると「ありがたい、朝、もっと寝坊ができる!」と引っ張りだこになるに違いありません。疲れることもなく、痒い所に手が届くAI(人工知能)ロボットは、まさに人間を超える存在になるとも言えるでしょう。
次に、ネズミの脳の機能に着目した、驚くような取り組みをご紹介しましょう。
ネズミの脳の空間認知機能をすでに完全模倣しているハードウェアが開発されているから?!
AI(人工知能)に革命をもたらした「ディープラーニング」は、人間の脳の神経細胞(ニューロン)をまねたシステムで、人間を超えるとも言われていますがまだまだ完全ではありません。
つまり、私たちが迷わずに待ち合わせ場所に行けるのは、空間を正しくナビゲーションしてくれる人間のもつ「脳」の機能のおかげだということでしょう。
このような「脳」機能を再現すれば、AI(人工知能)も人間なみに賢くなるんじゃないか、人間を超えるんじゃないかと考えました。そこで東芝とアメリカのジョンズホプキンス大学が着目したのは何とネズミの脳!その中でも研究で注目されているのが、記憶や空間学習に深く関わっている「海馬」です。
そんな「海馬」の空間認知をつかさどる神経細胞には、ネズミが特定の場所にいるときのみ反応するという「場所細胞」と「格子細胞」(空間の座標を表す)があります。この二つの細胞の模倣動作に必要なハードウエアの構成、制御技術などを開発し、東芝の回路実装技術を組み合わせることで作り上げたのが、小型の脳型AI(人工知能)ハードウェアなんです(2019年5月)。
実際に次世代の災害対策ロボットや産業ロボットなどは、自分のいる空間と目的地までの最適ルートや、位置情報、経路情報などを正確に把握する能力が求められますよね。
なので、自分で危険を回避しながら人を救助しに行ったり、倉庫の荷物を最短距離でピックアップしてトラックに載せたり…。こんな複雑な動きができる脳型AI(人工知能)ハードウェアが実用化されると、きっと人間を超える働きをしてくれるでしょう。
最後にご紹介するのは、まさに人間の脳をまねたAI(人工知能)の実現をめざしている取り組みです。
人間の脳を完全コピー? あり得ないようであり得る話
ここまでもお話してきたように、赤ちゃんのように「未知の世界」からモノの名前や特徴を自然に学習して、「知識」から「常識」をもつようになることは「人間」特有のものですよね。
こんな何でもこなせる「人間の脳」をまねた、人間そっくりなAI(人工知能)の実現をめざしているのが「全能アーキテクチャ」なんです。
代表を務めるのは、ドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏博士。そして共に取り組んでいるのは、産業技術総合研究所人工知能研究センターの一杉裕志博士です。
この一杉博士が注目したのは、大脳の表面にある「大脳皮質」の構造ですが、何だか難しそうですよね。簡単に説明すると…
「大脳皮質」というのは大脳の表面にある厚さ2ミリほどのものですが、手足などの運動の制御、書き言葉や話し言葉の理解、視覚情報の処理など約50の領野に分かれています。さらに表面から内側に向かって6層に分かれていて、各層ごとに決まった種類のニューロンが結合されているんです。
この複雑な結合の仕方がどうやら解明されつつあるようで、6層構造を含めた大脳皮質の情報処理をモデル化して「ディープラーニングの技術」に取り入れる検証をしています。
そして、人間と同程度の「知性」をもつAI(人工知能)を2030年までにつくることをめざしているんです。
それだけではありません。なんと人間ならではの感情や意識などをつかさどるモジュールまで組み込んで、ますます人間にそっくりなAI(人工知能)をつくろうとしています。ロボットに別れのつらさ、虚しさなどの感情が身につくなんて、今まであり得ないと考えられていたことが、近い未来には現実化されるでしょうそうです。
こうして、AI(人工知能)は賢いだけでなく、今まで不可能とされていた「知能」を身に付けていくことで「AI(人工知能)に人生相談?!」まで、できるようになるかもしれません。まさにAI(人工知能)が人間を超える!ともいえますよね。
さて今回は、AI(人工知能)は人間を超える!なんてあり得ないような事があり得る理由をお話しました。
- 目標に向かって試行錯誤し、成功例を振り返って自ら学習するAI(人工知能)ロボットが開発されている
- ネズミの脳の「海馬」を再現して、空間認知機能を持つ脳型AI(人工知能)ハードウェアもすでに開発されている
- 人間の大脳皮質の構造を解明し、人間の脳をそっくりまねた、感情を持つAI(人工知能)ができるかもしれない
このようなAI(人工知能)の開発を目の当たりにすると、AI(人工知能)はもう、人間を超えてもおかしくないんじゃないか!と思いますよね。
これらの研究は、今までの「ディープラーニング」の技術とは違い、人や動物がもつ脳の機能に着目したもので、刻一刻と変化する環境の中でも自らが考えて判断し解決していく、そんな次世代のAI(人工知能)なんです。
現在活躍中の介護ロボットは、要介護者の入浴や排せつの介助など、1つのことに特化したものですが、「知能」を持ったAI(人工知能)ロボットが導入されると、介助だけでなく栄養のある料理を作ってくれたり、体調が悪い時には「大丈夫ですか」と心配し、すみやかに病院に連絡してくれたり…遠距離介護などで苦しんでいる人を助けてくれるに違いありません。
とうとうAI(人工知能)が人間を超えるのか!と恐れるのではなく、人間の知性を持つロボットにお願いできるところはお任せして、お互い補い合って生きていく!と楽しんでみるのもよいですよね。
人工知能は人類を滅ぼすのか AIが人間を超えるために必要な条件とは :朝日新聞GLOBE+
MIT Tech Review: セルゲイ・レビン(カリフォルニア大学バークレー校)
試行錯誤で作業学ぶロボット、UCバークレーが開発|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
東芝 研究開発センター:研究開発ライブラリ 脳の空間認知機能を小型の脳型AIハードウェアで再現-小型ロボット等への実装を可能とし、空間認知機能を備えた自律走行の実現へ-
『Newton別冊 ゼロからわかる人工知能 仕事編』 株式会社ニュートンプレス 2019.1.5