寿司ネタの定番とも言えるマグロ、赤身や中トロや大トロは基本中の基本の寿司ネタですよね。また、中落ちやホホ肉など、部位によって色々な楽しみ方があるのがマグロの魅力と言えるでしょう。
このように、世界中で人気のマグロですが、漁獲高が年々少なくなり資源の減少が危惧されてきましたが、近年になりこの資源不足を解消するために、長い研究の結果、2002年にマグロの養殖ができるようになりました。
そして近ごろでは、AIとIoTのおかげでさらなる進化を遂げています。このマグロの養殖の過程で、今まで人間の手で行ってきた作業を、AIとIoTが代わりに行い自動化ができるようになってきたのです。
今回は、私たちの食文化に欠かすことができないマグロの養殖について、AIとIoTが活躍するシーンについて詳しく解説いたします。
日本人とマグロ
さて、マグロを漢字で書くと「鮪」。魚へんに「有」と書くのですが、この文字には”広い範囲を囲む”という意味があります。
つまり、マグロは古くから回遊魚の代表として、私たち日本人に親しまれてきたことが言えるでしょう。
ご存知の通り、マグロなどの魚を食べる習慣が日本人の寿命の長さに影響していると言われ、近ごろは、世界的な健康ブームで海外でも魚を食べる機会が増えつつあり、魚を生で食する寿司、”Sushi”が世界中に広がりつつあります。
しかし近年では、世界中で魚を食べる量が増えるにつれ、今まではリリースしてきた小さいマグロまでも獲るようになり、マグロが生育する前に捕獲されるようになりました。その結果、世界的にマグロの漁獲量が減ってきています。そして、マグロ資源を守るために漁獲量制限が実施され、マグロが市場に回らなくなり、実際にマグロの値段も上がってきている状況です。
このままでは、マグロはなかなか市場に出回らず、超高級魚となってしまう可能性もあるのです。特に、私たちにとって一番おなじみだった太平洋のクロマグロが絶滅の危機にさらされています。
長かったマグロ養殖への道のり
絶滅の危機にさらされているマグロをなんとかしようと、かなり前からマグロを養殖する取り組みがなされてきました。
実は、1970年に近畿大学水産研究所がマグロの研究を開始したのですが、完全養殖が成功するまでには、なんと約30年の月日を費やしました。
ここまで時間がかかった理由は、マグロの稚魚のデリケートさでした。卵から稚魚になるまでの死亡率は、なんと99.9%だったそうです。
稚魚が水の中で生きるためには、十分に体力がなく、いけすの中の水流が強すぎて死んでしまうこともあったそうです。
このように、苦労を重ねてマグロの養殖技術が確立されてから約15年たった今、さらなる効率化のために、AIとIoTでマグロの養殖を自動化することができるようになってきました。
手作業を一気に削減
これまでの養殖の作業は、稚魚を出荷する前に専門作業員による選別作業で、生育不良のものを取り除くなど基準を満たす魚だけを選り分けていました。
この作業は、目視検査や手作業など、専門作業員の経験と集中力がものをいう環境で、作業員自身への体力的負担が大きく、自動化が長年の課題となっていました。
今回、AIとIotを使って選別作業の自動化をすることができるようになりました。日本マイクロソフトが、目視作業の要件をもとに、IaaS/PaaS「Microsoft Azure」のIoT機能と、AI機能「Cognitive Service」「Machine Learning」を組み合わせて、ポンプの流量調節をリアルタイムで自動化するシステムを設計・開発しました。
ポンプが吸い上げる水量が多すぎると、コンベアを通過する稚魚が多過ぎてしまい、選別作業が追い付かなくなります。一方、吸い上げる流量が少ないと含まれる稚魚の数が少な過ぎてしまうため、全体の作業効率が落ちてしまいます。
そこで、AIとIoTによって、ベルトコンベア上の魚影面積とその隙間の面積を画像解析し、一定面積当たりの稚魚数を分析するようにしました。さらに、選別者の作業量を機械学習させ、作業のための最適値を割り出し、ポンプの流量調節を自動化するソフトウェアを試作しました。
このようにとても微妙な調整が必要な作業をAIとIoTの力で実現することができたのです。
今回は、AIとIoTがマグロの養殖現場で活躍するシーンについてご紹介いたしました。
今までは熟練の作業員しかできなかった、稚魚の選別作業を、AIとIoTが行い、さらなる効率化に貢献しています。
現在はまだ実証実験の段階だそうですが、データの収集分析を行うととともに、改良した制御システムを2019年3月までに本番環境へ実装することを目指しています。
今後は、養殖の技術も向上し、当たり前のように養殖マグロがみなさんの食卓に上がることでしょう。そして、AIとIoTの力で、減少しているマグロ資源が回復してくれることを期待したいですね。